おねぇさんとほのぼの異世界

葱塩バター

第1話異世界召喚

滴る汗、金属の擦れる音。

常人よりも発達した筋肉がダンベルが上がる度に太くなっている。


「ふぅ、この位で今日のトレーニングはおわりにしようかしら」


そう呟くと傍に置いてあったプロテインの入ったシェーカーにペットボトルの水を注ぎシャカシャカと振る。

そして腰に手を宛て喉仏を上下させながら一気にごくごくと飲み干し、


「くぅーーー!やっぱりトレーニング後のダブルチョコレートプロテインは最高だわ!」


と滴る汗を床に撒きながら満面の笑みを浮かべた。

ふと、腕に着けているスマートウォッチからタイマーが鳴り響く。


「あら、もうこんな時間なの?トレーニングに集中していると時間が経つのが早く感じるわぁ、早く帰らないと!」


無人のジムで一人使った器具を元に戻し、床の掃除を終え帰路に着く途中の事だった。

もう少しで家だと曲がり角を曲がった瞬間、眩い光に包まれ、気が付いたらそこは石造りの薄暗い部屋。

金の燭台に蝋燭が立てられ、ファンタジーでよく見られる魔法陣的な柄が書かれた床の上に立ち尽くしていた。

周りを見渡せば怪しげなローブを着た年老いた男達とやたら着飾り下品になってしまっている金髪の女の子が立っている。

自分以外にも高校生の制服を着た男の子と女の子、そしてスウェットの女の子が一人。

全員がポカンと惚けていると金髪の女の子が声を上げた。


「私はエリスタ、この国、トレスト王国の王女エリスタ・トレストと申しますわ。この度は勇者召喚及び聖女召喚に応じて頂きありがとうございますわ!さぁ勇者様、聖女様、こちらへどうぞ!」


前に立つ高校生二人に声を掛け、黒いローブの老人達に指示を出す。

二人をローブの老人が連れて行くと私達を見て、嫌悪の眼差しを向けながら、


「そこの女と男は必要なさそうですけど一応鑑定しておいて、ハズレなら手切れ金を渡して外に捨ててしまいなさい」


と吐き捨てカツカツとヒールを鳴らしながら出ていってしまった。


部屋に残った一人の老人が近ずいてくると、


「ここに手を置いてください」


と水晶を出てきた。

言われた通りに手を置くと、何も起こらない。

同じくスウェットの女の子も何も起こらず、老人に深いため息を吐かれるとそのまま城の外へと放り出された。


「姫様の命令でな、仕方ない事じゃ、手切れ金として金貨100枚とこちらの服をマジックバッグに入れておいた。この通りの先にあるギルドのギルドマスターにも連絡をしておいた、そこでこの世界の身分証になるギルドカードを発行して貰いなさい。そうすればこの世界でも生きていけるだけの金は稼げるじゃろう。本当に申し訳無いが、こちらからお主らの世界へ帰る術は今の所分かっておらぬ。二人で力を合わせるも、一人自由に生きるもお主らが決める事じゃ。お主らの健闘を祈っておる。」


そう言うと門を閉じられてしまった。


「これからどうしようかしら?」


頬に手を宛てはぁ、とため息を吐き出すと横に立っていたスウェットの女の子が声を掛けてきた。


「えっと取り敢えずギルドに行きませんか?」


「そのギルドって言うのはどう言った所なの?異世界の知識って私無いからよく分からないのよ」


「ギルドとは魔獣と呼ばれる異世界の凶暴化した動物の進化したような存在を狩ったり、魔法薬に使用する薬草の採取の依頼を受けたりする場所ですね、異世界の知識としては小説やアニメ、漫画等を元にしているので全てに答えられる訳では無いですけど、主にそう言った依頼を受けれる場所だと思います」


「魔獣ねぇ、つまり害獣駆除と採取が主って事ね、その依頼を受けるにはどうするの?」


「ギルドの受付の近くに依頼書が張り出されている事がある筈なのでそれを見て決める事が出来るかと、それと依頼にもランクがあり、素人同然の私達の様な存在でも達成可能な物から、かなり経験を積んだ人でなければ達成出来ないものまであり、それを元にランク付けされています。殆どの場合はEランクやFランク等からスタートとなり、AランクやSランク等が最高ランクとなる場合が殆どかと」


「そのランクは皆同じスタートなのかしら?」


「特殊な場合や魔法、魔力、スキル等を考慮した場合は違うかも知れませんが、殆どの場合は皆同じFランクスタートかと」


「成程ねぇ、薬草なんてどう見分けるの?この世界の出身なら分かるかもしれないけど、私の様に異世界出身だとわからないでしょう?」


「その場合は本等を貸していただける様にお願いしてみましょう」


「そう言えばまだ名前を言ってなかったわね、ごめんなさいね、気が利かなくて、私は内田力、よろしくねぇ!」


「こちらこそすいません。自分は森平雪と言います。ではギルドに向かいましょう」


お互いが漸く自己紹介をした所で渡された小さな巾着を持って通りを歩き出す。

まだ朝早いのか殆ど人通りの無い道をギルドと呼ばれる場所まで歩いていくととある建物の前で髭を生やした男性に呼び止められた。


「こっちだ、あんたらが勇者召喚に巻き込まれた奴らだな、俺はこのギルドのギルドマスター、グルーダ。これからよろしく。」


「「よろしくお願いします」」


二人で頭を下げるとグルーダは少し意外そうな顔をしなが、ギルドへと私達を招き入れた。

中は少し薄暗く埃っぽさもある。

ここはレストランもしているのか奥の方ではお酒が棚に置かれており、フロアの半分はテーブル席で埋められていた。

グルーダの後をついて行くとカウンターに着く。

そこで紙を渡され名前と性別等を書かされた。

不思議な事にこちらの文字を読むことが出来て驚いているとグルーダが


「こっちに召喚された奴らは皆、文字の読み書きが出来る様になってるんだ」


と、説明をしてくれた。


その後、ギルドの説明をされるとさっき説明された事と殆ど変わり無かった。


「これでギルドの登録は完了だ。二人は魔力が測定出来なかったと聞いている。だが、魔力が無くても出来る事はある。だから余り気を落とさないでくれ。後はスキルだが、ウチダの方は筋肉、モリヒラの方は通販と出ているが、その、うん、まぁ、日銭を稼いで暮らしていくのは楽じゃ無いがきっといい事が有るだろう。住む場所だが、ギルドの使っていない小屋が裏庭にある。そこを二人で使ってくれ、掘っ建て小屋みたいなもんだが無いよりマシだろう。すまんなうちもそこまで余裕がある訳じゃなくてな、部屋をやる位しか出来ないんだ。余り特別扱いすると不満も出る。この国は今余裕が無いんだ、理解してくれ」


渋い顔で私達に頭を下げるグルーダは本当に申し訳なさそうだった。

その様子に


「部屋を頂けるだけでも十分です。むしろ魔力無しをここに置いてくださるだけでも有難いですから。スキルの方はよく分かりませんがおいおい分かると思うのであまり気にしていません。」


そう、女の子は返していた。

私もそれに習い


「グルーダさん、お気遣い本当にありがとうございます。スキルはよく分からないけれど何とかなりますから、ゆっくりと調べていきます」


と返事を返すと部屋に案内してくれた。

ギルドの裏手のあまり日の入らない様な庭のような所に小さめの小屋がポツリと佇んでいた。

そこの扉を開けると部屋は二つに別れており、土埃が溜まっている。

どちらも大きさは同じで私は左を女の子は右の部屋となった。


「それじゃ今日はここの掃除でもしてくれ。依頼は明日から始めてくれれば良い。それじゃあ」


グルーダは余り私達と目を合わさず小屋から出ていった。

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