第48話:北条氏康

天文19年9月11日:駿河蒲原城:前田上総介利益18歳視点


 信長がやってくれた、危うく青鬼が殺されてしまう所だった!

 青鬼が斉藤新九郎と一騎討ちするのは良い、武家なら当然の事だ。

 だが、味方の鉄砲玉に殺されるのだけは、絶対に許せん!


 戦国武将に武略や策略が必要なのは分かる。

 青鬼が負けた時に備えて、鉄砲組を伏せるのも我慢しよう。

 だが、鉄砲を暴発させるとは何事か!


 武家の一騎討ちを穢すにも程がある!

 鉄砲を暴発させた足軽と、指揮官の足軽組頭を打ち首にしたと言われても、そう簡単に許せるものではない!


 青鬼と1000兵に戻って来いと命じたのだが、義祖父殿に頭を下げられては、俺も強行できなかった。


 できたのは、今度同じ事があったら、義祖父殿が何を言っても青鬼と兵を引き上げさせる、そう信長に認めさせることだけだった。


 青鬼も、斉藤新九郎とは自分の手で決着をつけると言っていた。

 言葉通り、あの後何度も一騎討ちをやっているらしい。

 あいつ、斉藤新九郎との一騎討ちを楽しんでいないか?


 信長は本腰を入れて美濃を攻略する気だ。

 その為の策を矢継ぎ早に命じている。


 あまり長く遠国の国人地侍を戦わせられないので、遠江と三河の国人地侍は領地に帰されたが、信長に戦わされた後なので、俺のために戦わせられない。


 まあ、有り余る銭があるから、武者や足軽を幾らでも召し抱えられる。

 武名が轟いたお陰で、多くの武者と足軽が召し抱えてくれと集まる。


 以前は六角の陪臣になっていたくらいの技を持った甲賀衆が、進んで俺に仕えるようになり、伊賀衆も召し抱えられるようになった。


 俺が子供の頃にテレビで観ていた、抜け忍といわれる者達ではない。

 ちゃんと伊賀の有力者に話を通して家臣として召し抱えた。

 お陰で焼き討ちや夜討ち朝駆けができる者が一気に増えた。


 今でも甲賀や伊賀の本家とは繋がりがあるので、途中にある美濃や尾張の情報が手に取るように入って来る。


 信長は小牧山に新しい城を築いて、美濃攻めの拠点にした。

 だが、信長が手を加えたのは小牧山だけではない。

 信頼する叔父、織田信康の犬山城と黒田城を増改築して大軍を入れた。


 黒田城は、尾張上四郡守護代だった織田伊勢守の家老、山内但馬守盛豊が城代を務めていた、尾張を美濃かから守るための重要な城だった。

 今は青山与三左衛門尉が城代となって預かっている。


 青山与三左衛門尉が城代にされたのは、俺との関係が良いからだ。

 信長は青鬼と俺の兵を徹底的に使っていた。

 鯨狩りに使えなくなって利が大きく減る事になっても、美濃を落とす気だった。


 青鬼と俺の兵士1000を中核に信長が銭で掻き集めた足軽をつけて、木曽川を渡った美濃側に、稲葉山城を攻め落とすための城を奪って強化したのだ。


 信長は、土岐氏の守護所が置かれていた事もある革手城を奪い強化した。

 革手城の支城である加納城も落として、革手城と連携させて稲葉山城を落とす拠点としたのだが、その城代に義祖父殿を任じた。


 とはいえ、信長の軍師として仕えている義祖父殿が城代をできる訳がない。

 そうなのだ、信長は青鬼を戦わせるために、義祖父殿を城代にしたのだ。

 義祖父殿が城に詰められないので、青鬼が陣代として詰める事になる。


 青鬼は戦うだけの猪武者ではない。

 奥村次右衛門ほどではないが、俺よりは知略がある。

 廃城になっていた革手城近くの船田城を修築して、三城で連携できるようにした。


 マムシの軍勢が攻め寄せてきても、三城で連携できれば、どの城を大軍で攻め落とそうとしても、残った二城の軍勢が横槍を入れる事ができる。


 もっとも、青鬼と斉藤新九郎は城を落とす事に興味がないようで、毎日のように一騎討ちに興じているという。


 俺を仲間外れにするんじゃない!

 俺も武勇の限りを尽くした一騎討がやってみたい!

 全く歯ごたえのない弱兵を蹂躙するのには飽きたのだ!


「殿、北条相模守が戦の準備をしております」


 俺の筆頭家老となった奥村次右衛門が言う。

 次右衛門から北条と武田が襲ってくるかもしれないと言われていた。

 甲賀衆と伊賀衆を商人に偽装させて調べさせていた。


「下総や安房ではなく、こちらに来るのか?」


「絶対ではありませんが、今攻め込まないと殿が駿河を固めてしまいます。

 今ならまだ殿が完全に駿河を治めたわけではありません。

 北条相模守が攻め込んで来れば、今川治部大輔も兵を挙げるでしょう」


「今川治部大輔が城から出てくれたら、その方が討ち取り易い。

 野戦に持ち込むにはどうすればいい?」


「最初は城に籠って北条勢を誘き寄せましょう。

 北条勢が迂闊に富士川を渡ってきたら、水軍を使って背後に兵を送り、挟み撃ちにしてしまえば、北条相模守の首を取れるかもしれません。

 今川治部大輔が城を出てこの城を囲むなら好機です。

 殿が討って出られたら、十中八九は首を取れます。

 もっと確実を期すのなら、青鬼を呼びもどして背後を突かせれば宜しいでしょう」


「殿が青鬼を手放さない場合はどうする?

 背後を突かせるのを諦めるのか?」


「このような時の為に、甲賀衆と伊賀衆を召し抱えているのです。

 伴一族に任せるか、杉谷一族に任せれば大丈夫です」


「伴一族は夜討ち朝駆けが得意で、杉谷一族は鉄砲が得意だったな?」


「はい、その通りでございます」


「共同させた方が良いか、それとも一方に任せた方が良いか?」


「どちらかに任せられた方が宜しいでしょう」


「ならば伴一族に今川治部大輔を討たせる。

 杉谷一族には北条相模守を狙わせる」

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