第39話 風呂真神

 あれから数日。


 おれの傷は非日常由来のもののため、自己流の治療にはなったが、傷そのものも薄れて来たし、普通に動くぶんには痛みも消えて来た。


一方、ロボは神になったわけだし、これからは鎮座ましまして落ち着くのだろう――


 そう考えていたのは甘かった。


 全裸でエロ本を読んでやがる女の人狼――さっきはそう言ったが、これも訂正しよう。


 全裸でエロ本を読んでやがる女の狼神だ。


 真夜中に急に「エロ本を見せろ」と言って窓から上がり込んできたのだ。


 なんでそんなものと聞くと、「傾向と対策を知りたい」とか言う。しかも言いながらなぜか服を脱ぎ始めた。


 やめろ。ざしきわらしたちに悪影響だから!


 そして、オオカミの鼻から隠せるはずもなく、晴れておれの性癖がバレたのだった。


 よりによって神に。ちくしょう。


「わかった。ブルマだな」


 頼むから声に出さないで。死んだらいいの? ねえ? おれ死んだらいいの?


「神なら神らしくしろよ! だいたい神が一人の男をひいきしていいのかよ」


「なに、土着の神と人の間に子が生まれるなぞ、日本の昔話でも珍しくも無いだろう。天孫となると話は別だが、自分は神の眷属だからな。何の問題も無い」


 悪びれもせず言う。


「ホントかよ……」


 そうは言っても。コイツが、それまでの自分を捨ててでも、この土地に縛られてでも、おれを救ってくれたのは本当なんだ。


 人狼を捨てて……


 あれ? ちょっと待て。


「もう人狼じゃないんだよな?」


「無論だ。枝隈神社祭神眷属・風呂真神だからな」


「じゃあもう発情期とかないんじゃないの?」


「いや、性欲が全く消えていない。というか真神は神であっても狼である事に代わりは無い。あと元々私は性欲が強いのだと思う、かな」


「なんだよそのカミングアウトは……」


 でも、いい加減このままというわけにもいかない。


 すぅと一度呼吸する。


「……わかった。わかったよ。もうカッコつけるのはやめる」


「え?」


「お前は魅力的だ。とんでもなく。そしておれはエロい。正直、お前を抱きたいと思ってる」


 と、こっちが意を決して言ったというのに、ロボは顔を背けた。


 その顔は、真っ赤に染まっている。


「ううむ。……そう直球で言われると萎えるな。いいか。自分はずっと前からこの発情期に悩まされていたんだ。いよいよそれが解決するんだぞ? もっとこうロマンチックにだな……」


「お前のこれまでの発言を録音しとくべきだった」


「まぁ、これからの努力に期待という事で、一旦は保留だな。いいか? 自分は今後油断するから、その隙をつくんだぞ? わかった、かな?」


「……」

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