第38話 雷は神鳴

 供え物……そうか……だから、握り飯か。


 神に動いてもらうには、供え物をして願いをかけなければならないのだ。


 おれは倒れたまま、懐から銀紙に包んだままの握り飯を差し出した。潰れて変形し、銀紙にも血が付着しているが、ロボが気にした様子はなかった。


「……じゃあ、これで……アイツを……倒してくれ」


「承知した」


 彼女が忍者のように右手の人差指と中指を立てると、おにぎりは光に包まれて消えた。


「地の者より、供物が捧げられた。神として、貴様を征伐する」


 ホッケはバケモノとは格が違うと言っていた。


 なら、神とは?


「く……く……」


 ホッケが呻く。それが、答え。あの狼男が、明らかに狼狽している。


「神の眷属とはいえ、まだ成りたてだ! だったら魔獣の血を引くオレにも分があるはずだ!」


 狼男は、半ば捨て鉢に飛び出した。


「無い」


 その声は厳かで。


 そして神の声とは、すなわち神の鳴る音。


「カムナヅチ」


 雷鳴轟く。雷は神鳴。


 神の眷属たるロボは、雷を操る力を手にしていた。


 その威力たるや――


「ウギャアアアアアア……!! アアアアア!!」


 雷の滝がホッケにまともに降り注いだ。


 その巨体が一瞬にして燃え上がる。積まれた藁のようにごうごうと。


 断末魔の悲鳴だけが響き。


 その悲鳴すら燃え尽きて。


 狼男は、あまりにもあっけなく、この世からチリとなって消えた。


 最初から存在していなかったかのように。


 おれにしか見えなかったものが、誰にも見えぬように……。

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