第31話 必ずその肉袋を食い殺す

「は?」


 純銀の星形キーホルダーが、スーツを貫いてフォッケヴェルガー……いや、ホッケの脇腹に突き刺さっていた。


 もちろん、おれが刺したものだ。無我夢中で突っ込み、突き刺した。


 それでも、星の尖端が数センチ突き刺さっただけ。


 人間ですら致命傷には程遠い。


「ぐっ……がっ……!」


 しかし、ホッケは脇腹を抑えて、ひどく苦しそうに呻いた。


 効いて……いる? 銀の弾丸の伝説のように?


「よくも……!」


 むしろ逆効果だったかもしれない。怒りに燃えた眼で、ホッケが睨みつけて来る。


 ああ、これは死んだ。


 そう確信した次の瞬間――


「……よくやった!」


 跳ね起きたロボが、その勢いのままキーホルダーを蹴りつけた。


「ぎがぁっ!」


 丸ごと体内まで打ち込まれる純銀の星。


 それはまさに、弾丸を撃ち込んだような衝撃でホッケに突き刺さった。


「がああああああ!」


 激痛に呻くホッケの瞳には、激しく燃え上がる怒りの色が浮かんでいた。


 まるで毒を盛られたように、肩で息をしながら苦しんでいる。口からはよだれがだらだらとこぼれていた。視線も定まっていない。


 ――が、やはり致命傷ではないらしい。


「この高貴な、オレの毛並みに……傷を! ぐぐ……」


「形勢は、これで五分だな。毒を体内に撃ち込まれたままで、自分と戦ってみるか?」


 ロボは体勢を整え、拳を固めた。


 狼男は一瞬眉間を歪めると、


「ぐぐぐ……くそオオオオオオオオオオオオ!」


 大きく吠え、そのまま空に飛び上がった。


 いつの間にか日が落ち夜になっていた空の闇に、あっという間に消えてしまう。


 そして空から、怒りに満ちた声だけが降ってきた。


「明日だ! 明日の晩! 必ずその肉袋を食い殺す! 震えて眠るがいい!」


 その声の木霊が消えるのと時を同じくして、周囲から不穏な空気が消えて行った。

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