第30話 自分の中で何かのスイッチが切り替わった

 彼女では勝てない。


 お互いの時間スケールが違う。


 速すぎる。


 速過ぎて影にしか見えない何かが次々とぶつかり、みるみるうちにロボの体がきりもみしながら空中に浮いて行く。それは、まるでF1のコースに間違えて入ってしまったかのよう。


 どさり、と土のうが落ちるような音がして、ロボが倒れ伏した。


 意識は――あるようには見えない。


「さて、躾の悪い脚の一本でもへし折れば、おとなしくなるか」


 フォッケヴェルガーがロボの脚に手をかけ、無造作に持ち上げた。


「いっそ、もぎ取るのもいいか……なあ!」


 鋭い爪がロボのふくらはぎに突き刺さり、血が噴き出す。


「ぐあああああああああああ!」


 耳をふさぎたくなるような、ロボの絶叫が響いた。


 その悲鳴を聞いたた瞬間――


 自分の中で何かのスイッチが切り替わった。


 人間とは不思議なものだ。


 自分が死にそうな時には体は動かないのに。


「うあああああああああああああ!」


 誰かのピンチには『動く』んだから。

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