第25話 やはり見えているようだな

 話がそれたな。


 とにかく、そんな経験がいくつかある。


 やつらは見えない――居ないから、それに何かされたら、有り得る事に置き換わる。


 きっと、狼男に食われたなら、野生の狼に襲われた事になるんだろう。


 ふと。昨日のニュースで、県内で野犬に人が襲われ亡くなった、そんなニュースを見た事を思い出した。


 日本に野生のオオカミはいない。なら、置き換わるとしたら、一番近いのは野犬だ。


 もう、『すぐそこまで来ているんじゃないか』……?


 背筋に走る怖気を振り切り、家に向かった。


 日が暮れ始めているが、神社から家はせいぜい二〇〇メートル程度。足早に、ブロック塀が並ぶ路地を進んだ。ちょっとした迷路にも感じる。


 そこで、まだ日は落ち切っていないのに、闇を感じた――というとヘンに聞こえるかもしれないが、周囲から一段、風景の彩度が落ちるような、異様な感覚があった。


 そいつは、路地の出口の古びた電灯の下にいた。まだ夕刻だが、早めに自動で灯りがともり、バチバチと瞬きながら、下に立つ男を照らす。


 満月のように輝く金色の髪に、高級そうなグレーのスーツが似合う、筋肉質なのにスラリとした長身。嫌味にならないサングラス。幻想が形を持ったモノ。


 あまりに絵になるそれは、だからこそすぐに狼男だとわかった。


 ロボと大きく違うのは、全身が総毛立つ圧倒的な寒気だった。


 眼すら合っていないというのに、もう視界に入るだけで、死を直接脳に叩きつけられているような感覚。


「初めまして。やはり見えているようだな。オレが」

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