第24話 障る

 考えてみれば、人狼というのはとても不思議な存在だ。


 見えないが実在している。


 人だって食う。


 だが、人に見える形で、明確な痕跡を残せない。


 触る事は出来ないが、障る事は出来る。


 そう、『さわる』。


 奴らは目に見えない。


 見えないが、干渉は出来る。シンクが夜中勝手に鳴るように。


 学術的裏付けがあるわけじゃない。たかだか十五年の人生で得た経験則と予想に過ぎない。


 でも、多分当たっていると思う。


 以前、ふざけて地蔵を壊した暴走族を見た。暴走族と言ってもド田舎だから、三人しかいいない上に周回遅れのデザインのバイクを乗り回しているような集団だ。


 そいつらが壊したのは、杉山の脇を通る道で、交通安全と書かれたノボリが建てられているだけで社すらない道端の地蔵。


 通りがかりで遠巻きに見ていたんだが、どうやら彼らはそのノボリを盗もうとしたらしい。振り回して走りたかったのかもしれない。それからおそらくは仲間内でバチが怖くなったやつが居て、後は売り言葉に買い言葉で地蔵を蹴倒すに至ったのだ。


 直後。一瞬、景色が歪んだ。気付いたのはきっとおれだけ。


 それから、最初からそこに居たかのような大きなムカデが暴走族の前に現れた。


 そのムカデには足は一本も無かった。百足ならぬ無足。


 無足はどうやって動いたのかわからないが、地蔵を蹴り倒した暴走族の足に巻き付くと、すぐにその姿を消した。


 翌日、同じ場所にバイクが転がっていた。次々に杉の木々にぶつかったからだろう、バイクの両側が丸くあちこちひしゃげていた。まるで長い物に巻きつかれたかのように。


 死んだと言う話は聞かなかったから、生きているとは思う。


 自分が、あの時、どうやったって助けられたとは思えない。


 見ず知らずの暴走族に、見えもしないムカデの話なんかして信じるわけがない。見えるだけのおれが、祓えるわけもない。何も出来なくて当然だ。


 でも、凄くイヤな気持ちだった。

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