第21話 そういう意味では油断していた
「ふむ、しかしその心配ももっとも、かな。つがいの維持はとても大事な事だ」
真剣な顔をして考えこむロボ。
やがて、いかにもいい事を思いついた、という顔をした。
「であれば名案がある」
自分で名案とか言うヤツの言葉ほど危ない物は無い。
「自分を追って狼男が来るだろうから、ソイツを倒せばいい。それは惚れる」
いや、なにをおっしゃるウサギさん。いやオオカミだけど。
「どう考えても勝てるわけないだろ。狼男だぞ。たぶん猛獣と戦うようなもんだろ」
「うむ。まぁ殺される、かな……おい、困るじゃないか」
言いつつ、顔をしかめる。言う前に気づけよ。
「だからそう言ってるだろ。だいたい、何で狼男が追って来るんだよ」
「自分と交尾をしたがっていてな。こちらとしては顔も見たくもないが、人狼自体極端に少ないからな、しつこくてかなわんのだ。毎度ソデにしてるから、そろそろ向こうもシビレを切らして実力行使に出そうでな……ああ嫌だ嫌だ」
「ちょっと待て。そんなヤツが来るなら、あんたと親しそうにしてるおれを見て、襲ってくるんじゃないか?」
つまり、もう能動的に倒す倒さない以前に、狙われるポジションにおれはいるんじゃないか。
「確かにそう、かな。……とは言ってもだな。自分としてもこんなチャンスは滅多にない。というより奇跡だ。逃したくない。自分で言うのもなんだが、美人ではあると思うし、ユウとしても悪くない取引だと思うのだが」
……そうなのだ。悔しいけど、その通りなのだ。おれの人生に、こんな美人と知り合うチャンスすらないだろう。
だけど……だからってそのまま乗っかるのは……なんか嫌だ。何より命がかかっているし。
「……考えさせてくれ」
「うむ。わかった。では日を改めるとしよう、かな。夕食に近くの淀みでも食べに行く必要もあるしな」
本当にすっぱり諦めた、という様子で、やけに朗らかだった。
「……なんだよ。逃げるなとか言わないのか?」
えらく物わかりが良すぎて逆に怖い。
「なぜ? 意味がない。自分は狼だぞ? 匂いは覚えた。この町のどこに居ようがすぐに見つけられるさ」
なるほど、確かに。狼の嗅覚は犬以上だって言うしな。
「ユウは昨日自慰をした、かな?」
「お、お前何言ってんだ!?」
「一度洗ったくらいでは自分の鼻は誤魔化せないという事、それくらいの感度だと言っているだけだ」
こいつ……ダメだ。あほだ。小麦粉か何かだ。脳が。
「あ、そうそう。狼男も自分の匂いを追って、数日以内には現れるから気をつけてな」
そう言い残し、彼女は集会所を出ていく。
「なんつー……不吉な予言を……」
なんにしても。
頭の痛い日常はここから始まったわけだ。
いや、そういう意味では油断していた。
もう、今日は大丈夫だろう、そう思っていたんだから。
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