第11話 人狼とか言われても……

 その女の語気に、全くの敵意も害意も含まれていなかった。


 人狼? こいつは流暢な日本語ではっきりそう言った。


 だとすれば、あのおとぎ話で出てくる、人を食べるような化け物って事じゃないのか?


 聞き出そうと思ったが――


「ふ、風呂……ロボ?」


 おれの口から洩れたのは、そんな間抜けな言葉だった。指先が震えている。


 怖くて、怖くて、聞きたい事とは全く別の言葉が自然に出たらしい。


「多分、想像している単語とは違う、かな? まぁ風呂でもロボでも好きなように呼ぶといい」


 苦笑する女。その表情すら、どこか絵画のよう。


「あ、あんたは一体」


「誰なのかは言った。とすると、知りたいのは素性、かな?」


「いや、人狼とか言われても……」


 違う。おれにはわかっていた。コイツが人間じゃない事くらい。


「いわゆる狼男だが、男ではないので人狼と言っているだけだが……ふむ。確かに今の姿はどこもオオカミらしくない、かな。しかし、自分は純血種ではないからな。満月の夜にしか獣人の姿にはなれないのだ」


 まだ。まだこの段階なら人間だと、一言言ってくれれば、人間だと言い張れる。


 日常に戻れる。


「そうだ。尻尾ならあるぞ」


 女は尻を向けると、カチャカチャという音の直後、簡単にジーンズを引き下ろした。言葉通り、たわわな桃の間にちょこんと丸い尻尾がある。


 メロンに桃に大豊作だ。そんな現実逃避に意味はなく。


「後は、犬歯が長いな」


 開かれた口に並ぶ歯は、確かに犬歯が人のそれではない。


「後は……ふむ。もう思いつかない、かな」


「もういい……充分わかった」

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