第10話 フロウズヴィトニル・ヘテロロボサ

 おかしい。おかしいと言えば全部おかしい。


 犬の飼い主は、そんな女に気付いてすらいないようだった。


「あ」


 そこでおれは気付いた。気付いたが、もう遅かった。


『目が合った』。


 琥珀のように綺麗な瞳。吸い込まれるような輝き。非現実的な色彩。


 こいつは、やばい。


『こっちの人間じゃない』。


 逃げよう、そう思ったが、その瞳に射抜かれて動けない。蛇ににらまれたカエルそのもの。


 女は満面の笑顔だった。さながら、ごちそうを見つけた子どものように――


 つかつかと歩いてくる女。


 すがる様に犬を連れたもう一人を見てみたが、既に散歩に戻ったらしくその背が遠くなっていく。


 そうして目を離した隙に、人間ではない何かがおれの目の前まで近づいていた。


 にい、と歪む口元。


 食われる……! 直感的にそう思った。


 が――


「自分はフロウズヴィトニル・ヘテロロボサ。人狼だ」

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