第9話 痴女ってレベルじゃねーぞ

 その日、おれはいつものように部活を終え、帰宅の途についていた。


 一級河川・枝熊川しぐまがわ沿いの我が母校は、帰り道は自然と河川敷を通る事になる。


 河川敷と言っても通学路はもちろん堤防の上で、大雨でも水がそこまで上がって来る事はない。その日は晴れていたし、堤防のブロック塀の下、遊歩道部分に犬の散歩をしている人の姿もちらほらある。


 その日は気まぐれに自分も遊歩道に降りて行った。


 遊歩道から見える川は、中々広い。何しろ川幅は一〇〇メートル以上あるのだ。岬のように突き出した消波ブロックの上を進むと、その川がより大きく感じる。


 ひとしきり水面を眺めた後、振り返るとソイツを見つけた。


 いや、正確には、犬の散歩をしていた女性がまず見える。それから犬はオスらしく、ブロックにマーキングをするために片足を上げていた。


 その正面にもう一人別の女性がいた。とんでもない美人だった。


 夕日を浴びて灰色の髪がキラキラと輝く。白い薄手のセーターではとても隠せないどころか、むしろ強調されているたわわな果実。ダブルメロン。何の変哲もないジーンズが、日本人では真似できないサマになっている感覚。ユニクロとかの店内の写真のあの感じだ。


 外国人を見る事すら稀なこんな田舎で、そんな人が居るのはある意味異常事態だった。


 でも、異常なのはそれ以上に、その女の容貌でなく様子だった。


 問題は。


 目の前でマーキングする『犬の股間を凝視している』事だ。


 顔は紅潮し、遠目からも息遣いが聞こえてきそうなほど――いや、あれ絶対ハアハア言ってる。半開きの口からはよだれまで垂らして、人形のように端正な顔が台無しだった。


 痴女ってレベルじゃねーぞ。

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