本編 ステージ1 史跡・寺田屋付近
「きゃああぁぁぁ」(子供の叫び声)
おや?
貴方にも今の叫び声が聞こえましたか?
これはこれは、コチラの世界にようこそ。
いやいや、ご心配には及びません。
今のは昔の声でございます。
いや、昔と言ってもコチラの世界では、つい先程の事なのですが、実はソチラの世界から言って昔の事、坂本竜馬殿という方が居られまして、その方がコチラの寺田屋で子供達に怪談話をしており、今のはその怪談話を聞いた子供達の叫び声なのであります。
「きゃああぁぁぁ」(再び子供の叫び声)
おや?
又、聞こえましたね。
いったいどんな内容なのでしょう?
どうも気になりますね。
では、ご一緒に覗きに参りましょう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
__ドタドタドタ!(階段を駆け上がる音)
__ガタッ!(戸を開ける音)
「あんた達! 何、キャアキャア騒いでんの! 下に人が居るのに、隠れているのがバレたらどうするんの!」
「アハハハハハ! お登勢さん、大丈夫ぜよ。新選組もこんな雨の日は出歩かんぜよ」
時は幕末期、ここ寺田屋では後の幕末の英雄とされる坂本竜馬殿が宿泊されておられました。
いや、宿泊というより匿ってもらっていると言った方が正しいか。
何せこの竜馬殿は討幕を考える勤王の志士の御一人でしたから、幕府側から追われる身。
とはいえ、竜馬殿は幕府側と反幕府側が武力の争いではなく、話し合いで解決できないかを模索する御方でした。
そんな竜馬殿が寺田屋に身を寄せるきっかけは、元々幕府側だった薩摩藩なのです。
実は少し前、この寺田屋で薩摩藩士同士の悲しい争いが有りました。
寺田屋女将、お登勢殿は大変気丈な方で、切り合いの争いが起こっても子供達を竈に隠し、宿を守りました。
事件後、薩摩藩は寺田屋に迷惑料を払ったのですが、なんとお登勢殿はそのお金で亡くなられた方の牌を作られたとか。
それを聞いた薩摩藩は「何と情のある方だ」と、感心と信頼を寄せる事と成り、それで土佐藩を脱藩し、勤王の志士として活動していた竜馬殿の事をお願いしたのです。
お登勢殿はこれを快く引き受けました。
何せこの御方、超が付くほどの世話好き。
女手一つで三人の子を育てているばかりか、身寄りの無い子も数人、自身の子として分け隔てなく育てていたそうです。
そんな方ですから危険を顧みず、竜馬殿の事も家族のように住まわせていたのでしょう。
竜馬殿もすっかりお登勢殿を気に入り、何でも相談する間柄に。
普段、昼は寺田屋の二階で寝ている竜馬殿でしたが、雨の日は外で遊べない子供達を気遣い、二階に呼んでは得意の怪談話などをして楽しませていたようです。
ただ、幕府側の伏見奉行所とは目と鼻の先。
騒ぐと龍馬殿が見つかるのではないかと、そりゃーお登勢殿も気が気ではなかったでしょう。
「いいこと。大きい声が出そうに成ったら、こんなふうに手で口を押さえなさい。上の仔達もよ! 分かった?」
そう言うとお登勢殿は、静かに下の帳場に降りていきました。
それを確認したお登勢殿の子供達は再び竜馬殿に強請ります。
「次の話? うーん……そろそろネタが尽きてきたぜよ……あっ! そうじゃ! 妖怪話なんかどうぜよ?」
子供達は又大声で叫びそうに成ったので、お登勢殿がしたように慌てて両手で口を押さえます。
「しかもつい先日、わしとお龍がこの近くで体験した話ぜよ。聞きたいか?」
この近くで竜馬殿が妖怪と出会った話と聞いて、お登勢殿の子供達の好奇心は頂点に達します。
子供達は大声を出したいのを頬を真っ赤にしながら我慢し、「聞きたい、聞きたい」と、足をバタつかせながら急かしました。
「分かった。分かった」
竜馬殿は軽く咳払いをし、小雨が降る窓の外を眺めながら静かに語り始めます。
あの日の夜の事を……。
「そうじゃ。あれは今日みたいな小雨が降る、肌寒い夜の事だったぜよ……」
__サアッー(小雨の降る音)
〈ステージ2に続く〉
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