第2話 学校犬

 野犬が村に棲みついたことがあった。

 隆の家の鶏が襲われた。

 鶏は昼間、庭に放し飼いしていた。夕方になると「トー、トー、トー、トー」と言いながら、鶏小屋に追い込む。これは子供たちの仕事だった。家事労働である。


 野犬は鶏小屋に押し入った。鶏は逃げる場所がない。朝、卵を取りに行くと、凄惨な犯行が行われた後だった。


 野犬は学校にも迷い込んできた。

 一頭で行動しているものもいれば、床下などで家庭を持つ犬たちもいた。仔犬が生育すれば地域は犬でにぎやかになったことだろうが、頭数が増えたようではなかった。


 幸いにして、闇に葬られなかった仔犬は逆境の中で育つ。どこへ行っても爪弾きにされ、蹴られたり石を投げられたりする。もはや人間は敵でしかない。


 その迷い犬は、講堂の床下を住処すみかとしていた。

 子供たちがのぞくと、吠え立てた。棒で突っついたり、石を投げ込んだりするワルガキを、激しく威嚇いかくした。

 洋一もよく犬をからかった。しかし、犬は床下から出てくることはなかった。子供たちと犬との停戦ラインがあったのだ。


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