第48話 第11ダンジョン

「ノエイン様、これが新たな完成した聖剣にございます」


 跪き差し出すのは、第11ダンジョンの司令官である黒子天使のベルフォル。そして、手にした2対の聖剣を受けとるのは、第11ダンジョンのダンジョンマスターであり熾天使ノエイン。


 深紅に染まった大振りの刀は聖剣ミッターマイヤーと名付けられ、青白い光を放つ両刃の剣は聖剣ロイエンタールと名付けられた。


 聖剣ミッターマイヤーを抜けば、刀身は熾烈な炎を纏い、姿をうかがい知ることは出来ない。

 次に、聖剣ロイエンタールを抜く。聖剣ミッターマイヤーとは違い、剣身は氷のように透き通り、青白い光を放つ。


「如何でしょうか?」


「悪くはない」


「はっ、これまでにない出来にございます」


 ベルフォルが指を鳴らすと、転移魔方陣が現れ、そこから出来てたのはアークデーモン。両足には足枷が付けられているが、それは力を封じる為のものでなく、このダンジョンから出れなくするための封印でしかない。


 呪詛の言葉とともに、自由な両腕を振るえば、それだけでノエインの側仕えの黒子天使は、もがき苦しみ息絶えてしまう。


「聖剣の試し切りに申し分ない者を用意しました」


 呪詛の言葉をものともせず、ノエインはアークデーモンに近寄る。敢えて呪詛に対抗しようとはせず、ハロの光を最小限に抑え、無抵抗で受け入れている。


「合格だ。試し切りの名誉を与えてやる」


 徐に聖剣ミッターマイヤーを振るえば、アークデーモンの全身を炎が包み込む。聖剣ミッターマイヤーの炎は、全てを燃やし尽くすまで消えることはない。

 アークデーモンがさらなる呪詛の声を放とうすれば、さらに炎は激しさを増す。声や魔力、魂さえもが燃やし尽くす対象となり、アークデーモンの痕跡を跡形もなく消そうとする。


 アークデーモンの呪詛の声が、ただの悲鳴へと変わり、次第に小さくなる。


「おや、意外と根性のない脆いヤツめ」


 今度は、聖剣ロイエンタールを消滅しかけたアークデーモンに突き刺す。聖剣ロイエンタールに纏わりつくミッターマイヤーの炎は、次第に弱まり消えてしまう。

 聖剣ロイエンタールは、消えかけたアークデーモンの魂を氷の牢獄に閉じ込めてしまった。完璧なまでの牢獄の中では、アークデーモンの魂の痕跡は感じられない。絶対的に結界の中では、アークデーモンは力尽き消滅することも許されない。


「ノエイン様、如何でございましょう?」


「これまでの聖剣と比べても、ワンランク上の出来だな」


 少しでもダンジョンを成長させ、地位向上を目論む熾天使の中にあって、自己の欲求を満たす為にだけ突き進む異質の天使の集団が第11ダンジョン。

 12あるダンジョンの中でも、獲得する魔力は低く、序列も11番目。しかし、そこから産み出される聖剣は、第11ダンジョンの唯一無二の存在にする。


「それでも、まだ納得されませぬか」


「これも不完全だ」


 そう呟き、2対の聖剣を鞘に納める熾天使ノエイン。

 火には水、光には闇。万物には、相反する属性がある。互いの力が暴走することのないよう、監視する力があるからこそ、世界の均衡が保たれている。


 だが熾天使ノエインは、世界の理を超越した力を求める。相反する力を持ち得る聖剣は、全てのものを破壊する、神々の力をも超越した力。


 熾天使ノエインは、キョードの世界中から、ありとあらゆる資源を集める。全ての物からの僅かな可能性さえも見逃さない。


「不完全とは言われましても、何やら楽しそうですが?」


「うむっ、これを見てみよ」


 それは、熾天使が描かれた古銭。古き時代の貨幣ではあるが、独特の輝きは未だに失われてはいない。月のような優しい光ではあるが、その光は遥か遠くまでを鮮明に照らす。相反する力を兼ね備えた光。


「これは、どこで手に入れたのですか?」


「第13ダンジョン。再生した始まりのダンジョンよ」

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