第47話 導く者
ヒケンの密林の主であるスキュラのツツジ。
その正体は、この森で最強のギャンブラー。全ての魔物を負かし続け、契約のマジックアイテムにより強い誓約が課せられる。
しかし、ギャンブルは幾度も繰り返し続けられる。一度の負けを取り戻すべく、さらに大きな代償を払い、ギャンブルを繰り返す。それでもツツジは負けることがなく、より強い支配を産み出される。
しかし、ヒケンの密林の魔物は、その魅力に取り憑かれてしまった。
そしてツツジの目の前に現れたのは、全てのオークとオーガを負かしたゴブリン。どれだけサイコロを振っても、唐津茶碗からは何の光や演出も起こらない。
逆に、そんなことはあり得ない。
唐津茶碗はサイコロの出目を予測し、時折その目に合わせた光を放つ。それが、サイコロを振る者の脳内にドーパミンを分泌させ、虜とする為の仕組みでもある。
それに、サイコロのそれぞれの目の出る確率は、均等に6分の1ではない。彫り量の影響を受け、5の目の出る確率が僅かに高くなっている。大きな目が出やすくなることで、唐津茶碗からの演出頻度も高くなる。
それに百回以上サイコロを振れば、ゴブ太でも5や6の目は出る。しかし、唐津茶碗が全く反応せず、物凄く確率の低いことが起こっている。
「面白きヤツ。妾と対等の力があると認めてやるぞ。その力を手に入れれば、妾は更なる高み昇華する」
ツツジが、サイコロを手に取る。手の中で、数度サイコロを回すと、それを茶碗に向かって投げる。
その瞬間、唐津茶碗からは虹色の光が放たれる。
「6の目が、2つの確定演出だ。だが、まだまだこれからよ!」
さらに、虹色の輝きが増すと、そこから現れた3対6翼の白銀のハロの光を放つ熾天使が現れる。
「来い、来い、ランクアップするのだーっ!」
その声に反応したのか、熾天使が手にした仗を振るうと、熾天使の体がゼブラ柄へと変化し、周囲には雷鳴が轟く。
「来た~、来たぞっ、ゾロ目確定の演出」
そして唐津茶碗の中には、6の目が3つ。目の合計は最大の18に、ゾロ目ボーナスの10が加われば、最高得点の28。この勝負では、最低でもツツジの負けはなくなった。
「さあ、ソナタの番じゃ。妾に、実力を見せてみよ」
「レヴィン、大丈夫ゴブか?」
ゴブ太が勝負を躊躇った瞬間、スキュラの6つの頭の狼が牙を剥く。最上位の魔物の片鱗を見せつけられて、ゴブ太は慌ててサイコロを手に取る。
ゴブ太の振ったサイコロは、オークやオーガの時と同じで、唐津茶碗からは何も変化が起こらない。サイコロが茶碗の中で跳ねる軽い音だけが響く。
そして、サイコロの動きが止まる。
ゴブ太の出した目は、何の変哲もない目。4・4・2で合計10の数字も、決して良い数字ではない。
「ソナタも期待外れの、つまらんヤツであったか。それとも妾が強すぎるのが罪なのか」
一瞬だけ寂しそうな顔を見せたが、直ぐに元の表情に戻ると、サイコロと唐津茶碗を回収しようとする。ゴブ太の幸運を奪えば、もうゴブ太に魅力は感じないのだろう。
ツツジが茶碗に手を伸ばした瞬間、カタカタと音を立てて茶碗が震え出す。茶碗の中はブラックアウトし、サイコロも見えなくなっている。
「何だ、何が起こっておる」
パキッと音がすると、唐津茶碗は真っ二つに割れ、そこからサイコロが零れる。赤く大きな丸が、綺麗に横並びで3つ並ぶ。
その光景を見つめるツツジは、ガクガクと震え出し、涙を流している。
「ピンゾロがどうしたんだ? ゾロ目ボーナスを入れて合計13。最初の10よりは良くはなったが、6のゾロ目に勝てるわけがない。ツツジの勝ちだろ」
「ピンゾロは出ないのだ。過去に一度も出たことのない目。それを出せる者がおるとは。そして、契約のマジックアイテムが壊れた。全ての契約は無効となり、解放されるのだ」
唐津茶碗が割れたことで、マジックアイテムの機能は停止する。それはサイコロも同じで、赤丸の目の色は次第に薄れてゆく。目が消えてしまえばサイコロとは言えない。
「我々を導く者こそ、ゴブ太様よ。妾は、ゴブ太様に導きに従い、ダンジョンで暮らす」
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