第46話 決戦のサイコロ勝負

 まずはゴブ太とオークのサシの勝負が始まる。


 先手のゴブ太が、唐津茶碗に向かってサイコロを振る。特に変わったこともなく、唐津茶碗の中を軽い音と共に跳ねるサイコロ。


「ふん、エフェクト無しブー」


 まだ茶碗の中のサイコロは転がっているが、オークはすでに勝ちを確信し、吐き捨てるように言い放つ。

 その言葉通りに、サイコロの目は、4・3・1の合計8。3つの目の最大合計が18なのだから、半分以下の低い数字ではある。


「まあ、底辺のゴブ太にしては頑張ったほうだブー」


 ニヤニヤとした笑みを浮かべながらオーク、今度は茶碗の中のサイコロを手に取るオーク。


「さあ、新しいボスの誕生だブー」


 サイコロが手から離れた瞬間、唐津茶碗からは緑の光が放たれる。茶碗の中でサイコロが跳ねる度に、天使の姿が浮かんでは消える。

 やはりただのサイコロと茶碗ではない、俺の鑑定眼が通用しないマジックアイテム。イカサマを疑ってしまうが、浮かんでは消える天使の姿は、熾天使サージが与えたことを証明している。


「さあ、来い来い、ステップアップするブー」


 そして茶碗の中から、緑のハロの光を放つ天使が飛び立つ。


「クソー、昇格無しの緑天使ブー。でも5の目は確定しているブー」


 茶碗の中を見れば、サイコロの目は5・1・1の合計7。オークの言った通りに、5の目は出ているが、他の2つは最低の1。


「そんなバカな。1が2つも出るなんて」


「ふん、緑演出から発展しない時点で、信頼度0オニ。ゴブ太に負けたオークなんて、存在価値すらないオニ」


 項垂れるオークの代わりに、今度はオーガが出てくる。茶碗からサイコロを拾い上げると、優しく両手で包み込むように持つ。


「サイコロの魔神よ。我らオーガ族にこそ、栄光を与え賜え」


 何かの文字を描くように手を振りまわし、最後に茶碗の上でサイコロを解放すると、唐津茶碗は赤い光を放ち、サイコロを迎え入れる。


「ヨシッ、赤演出は6の目確定オニ」


 さらに赤の光は輝きを増し、赤いハロの光を放つ天使が飛び出してくると笑みを浮かべる。


「どうだ見たか、さらに全てが4以上確定オニ」


 そして、茶碗の中のサイコロの目は6・5・4の合計15。


「見たかオーク君。ストレートボーナスの3点で、合計18。もう、オーク族の勝ち確定オニ。ゴブ太もやるだけ無駄だが、どうするオニ」


 念には念を入れ、ゴブ太を威圧し勝負せずに勝とうとしてくるオーガ。だが、成長したゴブ太は負けない。


「戦わず負けるなんて、あり得ないゴブ」


 先と変わらず無造作にゴブ太の振ったサイコロ。オークやオーガの時とは違い、茶碗は何の反応も示さず、僅かな光すら放ってくれない。

 恐らくは緑の光が5の目確定、赤の光が6の目確定ならば、5も6の目も出ないとことになる。


「うっ、そな筈は……」


 しかし、膝をつき崩れ落ちるオーガ。茶碗の中のサイコロの目は3・3・3の合計9。数字の大きさだけならば、ゴブ太は負けている。


「ゾロ目ボーナスは10。合計19でゴブ太の勝ちじゃな」


 スキュラのツツジがゴブ太の勝利宣言すると、オーガは膝をつき崩れ落ちる。


「まだ、終わってはないオニ。族長が破れても、副族長、副族長が負けても副族長代理がいる」


 サイコロ勝負は、誰でも挑戦出来る。ゴブ太一人に対して、オークとオーガは誰か一人が勝てば良い、圧倒的に不利な戦い。

 しかし、オークもオーガもゴブ太に勝てず、次々とゴブ太の部下が量産される。


「ふふふっ、この森の最強はゴブ太か」


 そして、最後にスキュラのツツジが出てくる。ダンジョンに関心はなく、サイコロ勝負をしたいだけだが、契約のサイコロと唐津茶碗の前には、何らかの賭けが必要となる。


「妾が負ければ、ゴブ太の部下になってやる。ゴブ太が負ければ、ソナタの幸運を頂く。良いな、ゴブ太!」


「ゴブ太、ダメだ。そんな勝負は……」


 だが、ゴブ太は頷いてしまった。スキュラの妖艶な眼差しに、初心なゴブ太が拒否なんて出来ない。

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