第45話 サイコロと唐津茶碗
ダンジョンの中から、強制転移させられてきたゴブ太。
「うっ、これは何だゴブ……」
いきなりの転移と、目の前にいるイジメっ子集団に、ゴブ太は動揺している。適度なカシューの訓練と程よいサプリの投与で、ゴブ太は驚異的なスピードで成長している。
それでもカシューにはまだまだ子供扱いされ、ゴブ太には強くなった実感はない。数秒と立っていられなかったのが、今は十秒は逃げ回れるくらいの成長でしかない。
しかしそれでも、オークやオーガを相手ならば、対等以上の力を身に付けている。これまで培ってきた苦手意識が、ゴブ太を逃げ腰にしてしまう。
「これはこれは、誰かと思ったらゴブリンの中でも最弱のゴブリン君だブー」
「これが、上司になるなんてあり得ないオニ」
「まあ、そう言うな。ゴブ太君は、第13ダンジョン最強の幸運の持ち主。ダンジョンの低層部を任せられた、歴とした主任なんだ」
「ゴブリンの時点で、幸運なんてないブー」
「こんなヤツが上司なんて、考えられないオニ」
「仕方ない、ダンジョンに求められるのは幸運。力や魔力は役に立たないと思ってくれ」
竜種達やアラクネのカスミの力で、魔物を抑え込むことは出来ない。再生したばかりのダンジョンでは、存在するはずがない強大な力であり、第6ダンジョンがあるからこそ維持出来ている。
あくまでも、第13ダンジョンだけで成立させなければならない秩序。
しかし最底辺だったゴブリンが、力で勝つようなことがあれば、大きな騒ぎになる。それに、ゴブ太の最大の力は幸運値。公正な勝負であれば、負けることはない。
「運勝負に勝てば、コブ太と主任を交代する。だが、負ければ、どうする?」
「ふん、負ければ、ダンジョンで無償労働してやるブー」
「まあ、勝負しなくても結果は見えているオニ」
恐らくはゴブ太との勝負に負けても、オークもオーガも認めない。今まで虐げてきた者の配下になることはプライドが許さない。ただ、ダンジョンに入ることを諦めてくれえばイイ。
「ほう、面白そうなことをしておるな」
急に妖しげな魔力が増大し、俺の影の中からクオンが飛び出してくる。
「出たな、狼女ツツジ!」
そこに現れたのは白銀のスキュラ。ヒケンの密林の主でもある存在だが、噂でしか聞いたことがない。上半身は妖艶な女性の姿で、下半身は六頭の狼達から成る魔物。
「安心しろ、猫狐。ソナタに対抗するつもりはない」
「じゃあ何故、引きこもりが出てくる?」
「何やら、面白い話をしておるではないか。運勝負で、ボスを決めるとはな。それならば、妾が居なければ始まらんであろう」
右手を手を軽く上下に振りながら見せてきたのは、3つのサイコロ。そして、左手に持っているのは唐津茶碗。
「運で決めるのであろう。これならば、公正で全うな方法。後で揉めることもない」
しかし、サイコロにも唐津茶碗にも、俺の鑑定眼は通用しない。詳細部は全て不明の、明らかなマジックアイテム。どう考えてみ、まともな物でないことだけは分かる。
「うっ、ツツジ姐さんブー」
「姐さんが出てきたら、勝ち目がないオニ」
「心配するな。妾にはダンジョンになぞ興味はない。興味があるのは、妾に対抗出来る最強の運の持ち主がおるかどうかじゃ」
「本当かオニ」
「最後は、総取りするつもりブー」
「疑り深いヤツらめ。それならば、このサイコロに誓ってやる。約束を違えれば、お前らへの貸しは全て帳消しじゃ」
俺達を無視して勝手に進んでゆく話だが、オークもオーガも納得してしまう。
「あのな、勝手に盛り上がっているところ悪いが、俺は認めてないぞ。どう考えたって、そのサイコロは怪しすぎるだろ」
「そう言われてもな、このサイコロと唐津茶碗を寄越したのは、お前ら天使じゃないか」
「んっ、そう……なのか?」
クオンを見れば、コクっ頷く。サイコロと唐津茶碗は、始まりのダンジョンの熾天使サージが、ヒケンの密林の秩序をつくる為に用意したマジックアイテムらしい。
契約の効果があり、どんな約束であれ、一度決めたことを違えることは出来ない。その約束を反故にする方法も、サイコロ勝負で勝つこと以外になく、負ければペナルティはある。
そして森の主として君臨するスキュラこそ、この森で最強の幸運を持った魔物。
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