第44話 ダンジョンコンセプト
強迫という説得で、ダンジョンの中へと冒険者達を導いた聖女クオン。
それでもダンジョンの中にあって聖域となる場所は、冒険者達の傷を癒す。疲れ果て眠ってしまうが、それも全ては、黒子天使の仕業。
「とりあえず、ダンジョンの中へは避難完了っすけど、ちょっと強引過ぎっすよ。勝手に勇者なんかにしちゃって大丈夫すか?」
「仕方ないだろ、命は助けた。ダーマさんのオーダー通りだろ。ブランシュだって分かってるはずさ」
ブランシュが意図した通りかは分からないが、あまりも過激過ぎるやり方はブランシュらしくない。冒険者達の退避が終わっても忙しく動くのは、何らかの事後処理をしている違いない。
ただ、俺達の問題も解決していない。ダンジョンの周りに集まってきた魔物が、この場にとどまり続ける限り、冒険者に安寧は訪れないし、魔物達は黄色の旗を掲げている。
「後のことは、オレは関係ないっすからね。魔物のスカウトは、先輩とカシューの担当っすよ」
「ああっ、分かってるって」
魔物達は黄色の旗を掲げている。黄色の旗の意味するものは「交渉」。敵意がなく戦闘を望まない証しとして黄色の旗を掲げるのは、この森で俺が始めたことでもあるだけに、それを無視は出来ない。
あくまでもヒケンの密林では、魔物のスカウトだけを行い、強制的にダンジョンに連れ去るような乱暴な真似はしていない。
しかし黄色の旗を掲げても、天使に反発し襲いかかってくる魔物はいた。その筆頭が、オークやオーガの中位クラスの魔物。個体数が多く、この森で幅を利かせている魔物の代表格でもあり、どちらもあまり知性は高くない。
俺達は避けているのに、何故か付きまとい嫌がらせしてくる面倒臭い連中で、もちろんスカウトなんてしたことがない。
しかし流石にオークもオーガも、ヒケン密林に起こった異変と影響の大きさを感じてか、態度が一変している。
「ウチらもダンジョンに入れるブー」
「そうだブー、黒い翼の天使のせいだブー」
「お前らが何かしでかしたのは、分かってるオニ」
「責任の所在を明確にし、損害賠償が必要オニ!」
そして聞こえてくるのは、「交渉」ではなく高らかに叫ぶ「抗議」の声。
通常では、出来たばかりのダンジョンで受け入れれる魔物の数は少ない。魔物を雇うにも魔力が必要で、ヒケンの密林のオークやオーガを雇い入れるには、かなりの魔力が必要になる。
だから、どんなダンジョンでも、最初はゴブリンのような下位の魔物から始めるのがセオリーとなっている。しかし、そんな理屈をオークやオーガが知る由もない。
「まずオーク族を受け入れるブー」
「待て、オーガ族の方が数は少ないから、こっちの方が簡単だオニ」
「揉めるなよ、ダンジョンに受けれる余裕はある。でもな、何回も説明してきたが、ダンジョンの中には入るには、まず契約が必要になる。希望者は、どれくらいいるんだ?」
見える範囲にいるオークもオーガも一斉に手を挙げている。それにつられて他の魔物までが手を挙げる始末。
「契約ってことは、ダンジョンで労働することだぞ。分かってるよな?」
「優秀なウチらがいるだけで、ダンジョンの格が上がるブー」
「オーガを見ただけで、逃げ出すヤツが続出オニ」
強気な態度で少しでも良い労働条件を勝ち取ろうとし、一度ダンジョンの中に入ってしまえば命令には従わないだろう。
そして、何よりも問題なのは、ダンジョンの魔物の頂点に立っているのがゴブ太だということ。散々いびってきたゴブリンが、オークやオーガの上司となれば、それこそ統制はとることは出来ない。
「先に言っておくが、このダンジョンのコンセプトは幸運なんだ。最強の幸運の持ち主こそ、ダンジョンを統べる魔物になれる」
ダンジョンにもコンセプトがあり、火属性に特化したダンジョンや、土属性に特化したダンジョンと個性がある。第6ダンジョンは、土属性に特化したダンジョンだからこそ、ザキーサから地竜ミショウを押し付けられた。
「それならば、オレ様がボスになってやるブー」
「何を、オーガこそボスに相応しいオニ」
「とりあえず、ボスと勝負してみるか」
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