第36話 迷いの森
ラーミウの圧倒的な力。死人を支配する力は、神の領域にまで到達している。
ただ、堕天使の眷属となったハーピーは、エンジェルナイツと渡り合える力を手に入れている。
それに比べて、出来たばかりの第13ダンジョンでは、圧倒的に力も人手も足りていない。対抗しようとは思わないが、ダンジョンを抱えて逃げることは出来ない。
「何、心配することもなかろう」
俺の心配を他所に、相変わらずのおやつタイムに勤しんでいるザキーサ。
「ゴセキの竜達だって、まだ避難したままだろ。このままダンジョンに居ても、逆に逃げ場がなくなるんじゃないか?」
能天気過ぎるザキーサに対しての嫌みのつもりだったが、全くザキーサには通じていない。しっかりとおやつを堪能し終わってから、やっと俺の視線に気付く。
「相性の問題じゃ。ほれ、見てみんかい。鑑定スキルが自慢の黒子天使じゃろが」
ザキーサが顎で示す先に居るのは、ハーピーのリン。リンの体には黒い瘴気が纏わりつき、それが回復を遅らせている。
だからこそ第6ダンジョンの最下層で、介護兼監視措置がとられている。万が一を想定しての隔離だが、アミュレットの光に包まれ、今のところリンが眷属化する兆候は見られない。
なぜ第6ダンジョンの最下層に居るかといえば、ブランシュのハロの光を浴びるとアミュレットの輝きが増す。
「ブランシュにも、サージ様と似たハロの力がある」
それは、アラクネのカスミの持つアミュレットも同じで、ハロの光はアミュレットの力を活性化させている。
「闇を打ち払う力。結界のようなものじゃな」
「もしかしてザキさんにも、つくれるのか?」
十程つくったアミュレット。素材は熾天使サージが用意した未知のものだったはずだが、今のザキーサは解明しているのかもしれない。
「それは、無理じゃ」
「はあ? じゃあ、どうするんだよ?」
「集めるのよ。アミュレットがあるのは、ダンジョンの中だけではなかろう。ヒケンの密林にも、まだ幾つかは残っておるかもしれん」
ザキーサが、そう言い切れるだけの自信があるのは、ヒケンの密林には未開の地がある。
「迷いの森か」
「帰らずの森とも言うがの」
誰の侵入も許さない森なのか、それとも生きて帰ってこれない森なのか。ただ、誰も近寄る者が居ない森。
「ブランシュが居れば、問題なかろうて。アミュレットがあれば、互いに惹かれ合う。ピクニックのようなものじゃて」
しかし、残念なのは本当にピクニックになってしまうこと。ブランシュの地上への強い憧れは、一度火が着いてしまえば、誰にも止められない。
ブランシュには、マッピング魔法で作り出したホログラムを見せて、しっかりと説明した。位置だけでなく地形をも精巧に再現する魔法。
その中に、ポッカリと黒くなった場所がある。森の姿は見えるが、全く記憶することの出来ない場所こそ、迷いの森と呼ばれる場所。
そして、バスケットにはサンドイッチと紅茶。アイテムボックス入れてしまえば、荷物にもならないし、保温の必要もない。しかし、雰囲気は大切だと押しきられ、俺は荷物持ちにされている。
ヒケンの森への侵入者があれば、トレント達が教えてくれる。それに古代竜ザキーサがお供にいるのだから、バレさえしなければ大抵のことは問題ならないかもしれない。
「ブランシュ、そろそろ迷いの森だ」
「特別、変わったところは無さそうね」
迷いの森に近付くにつれ、森は暗くなる。広葉樹から針葉樹の森へ移り変わり、黒い木々は密集している。どの木も特徴がなく似ており、それが方向感覚を狂わせる原因の1つで間違いないが、それだけでは帰らずの森とは呼ばれないだろう。
その森を、ブランシュのハロの光が照らす。
「不気味だと思わないのか? トレントでさえ、近寄らない森だぞ」
「そうかしら? 私には何か訴えかけているような気がするわ。さあ、あっちに行ってみましょう」
最初こそ俺が先頭に立ち進んでいたが、今はブランシュが隣にいる。マッピング魔法のホログラムは、まだ黒いまま。
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