第35話 熾天使筆頭ラーミウの力

 次々とダンジョンに転移してくる、ゴセキの竜種達。ザキーサを頂点として君臨していたが、ザキーサが第13ダンジョンに移ったことで、配下の竜種達がゴセキの山を治めていた。

 配下といっても上位種の竜で、伝説となるような強者ばかり。それが、次々とダンジョンへと転移してきている。


 ゴセキの山で緊急事態が起こったのは間違いない。


「ブランシュ、どうする?」


「転移陣を設置したのだから仕方がないわ。ザキちゃん、何が起こってるの?」


「うむ、ゴセキの山にも戦火が広がっておるのじゃろ」


 リンの話では、エンジェルナイツはハーピー達を蹂躙していた。弄ぶように殺戮を楽しみ、圧倒的な力の差を見せつけていた。

 しかし、ゴセキの山に戦火が及んでいるとなれば、エンジェルナイツが大きく押し込まれている。


「これを、見てみるがよい」


 ザキーサの取り出した水晶には、赤い翼のエンジェルナイツ達と、黒い翼のハーピー達が映っている。


 今のハーピー達は、ヒケンの密林のハーピーとは大きく変わり果てた姿となってしまっている。黒く歪に変形した翼は、倍以上に大きくなっている。腕全体が鉤爪となり、もう物を掴む事も持つことも出来ない、凶器と化している。

 それだけではなく、翼を軽く羽ばたきさせれば、森の木々からは枝葉がパラパラと落ちてくる。


「剣羽根を飛ばしておる。完全に闇落ちした者の、なれの果ての姿じゃ」


 凶器化した体だけでなく、エンジェルナイツのひび割れた鎧には黒い靄がかかり、それが力を奪っている。悪しき者である証しでもあり、その強さを表している。


「堕天使が誕生したのは分かっておったが、これは想像以上の闇を抱えておるな」


 俺もブランシュも、ザキーサからすれば赤子のようなもので、堕天使の誕生も闇落ちした魔物も見たことがない。ただ変異したハーピーを見ていると、竜種達が避難してきているのも納得出来る。


「これって、大丈夫なのか?」


「そう、早まるでない。避難しておるのは、所詮は下っ端連中じゃて」


 ジリジリと後方へと下がり防戦一方だった、エンジェルナイツ。その中でも最後尾にいたリーダー格の天使の首が撥ね飛ばされる。

 それは、エンジェルナイツを率いていたリーダー格の天使。ただしハーピー達の攻撃ではなく、後方からの攻撃によるもの。


「真打ちの登場じゃ」


 頭を無くし崩れ落ちたエンジェルナイツに代わりに現れたのは、三叉の槍を持った2対4翼の赤い翼の天使。


 さらに容赦なく蹴り上げれば、首の無い天使が起き上がる。ぎこちないく不自然な動きで、再び武器を掴む。


「操り人形、あれが死人使いラーミウの真骨頂じゃ」


 その恐怖に支配された、他のエンジェルナイツも反転攻勢に転ずる。


「ブランシュ、死人使いって本当なのか?」


「噂だけわね。でも誰もラーミウ様が、直接魔法を使ったところすら見たことがないわ」


「アヤツの前で、死の概念はない。操り人形の兵士を増やさない為にも、弱者はダンジョンへと避難させるがよかろう」


 恐怖で支配し、死んでも操り人形の駒が増えるだけ。徹底して全てを無駄なく利用する、ラーミウらしい力にも思えてくる。


 そして黒い法衣を纏った黒子天使達と、熾天使筆頭のラーミウが姿を現す。


 ジャック・オー・ランタンの堕天使と対峙するラーミウ。ラーミウは右手を天に翳すせば、カボチャ頭は砕け、そこからはラーキの顔が露になる。


 そこでハーピー達を従えたラーキは撤退を始める。


「これが、熾天使筆頭ラーミウの、第1ダンジョンの力なのか」


「ふんっ、こんな物まだまだ未熟のひよっ子よ。まだ、サージ様の足元にも及ばん」


 そのザキーサの言葉に反応したのか、水晶の中のラーミウがこちらを見て手を翳すと、水晶の中の映像は消えてしまう。

 ラーミウは、俺達に覗かれていることに気付いた。もしくは気付いていながら、敢えて能力の一部を見せた。俺達が地道に築き上げてきた能力やスキル。その想像を遥かに上回る力を、まざまざと見せつけられた気がする。

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