第33話 不思議なアミュレット
例え堕天使であっても、ラーミウ直属のエンジェルナイツであっても、ハーピーを襲ったのは天使であることに違いはない。
第6ダンジョンの崩壊が、結果的にヒケンの密林の魔物達にも大きな影響を与えてしまった。今襲われたのはハーピー達の縄張りであったかもしれないが、被害は拡大する可能性が高い。
「天使が引き起こしたことだぞ。俺達天使を信用出来るのか?」
「先祖は昔、ダンジョンに居たんだ」
そう言って、ハーピーが取り出したのはアミュレット。まだ幼さなさの残るハーピーの手の平に収まる程の、5角形の小さなもの。袋状になり上には紐が付けられている。そして、見たことのない文字や模様が全面に描かれている。
「これが、危険を教えてくれた。アミュレットの指し示したのがダンジョンだったから」
それを信じたハーピーだけが、今ここにいる。それでも満身創痍で、無事だとは言い難い。もちろん、信じなかったハーピー達の末路を見れば、奇跡に近いと思えるだろう。
「ザキさん、アミュレットのことは知ってるのか」
俺の鑑定眼スキルでは分からない、未知のマジックアイテム。そして、そんな物を簡単に作り出せる、始まりのダンジョンに当事者がここに居る。
「うむ、作ったような記憶はある」
「ザキさんでも、覚えていないのか?」
収集癖のあるザキーサであるが、珍しくアミュレットについては記憶は曖昧。
「素材を準備したのはサージ様よ。ワシは、設計図通りに作っただけじゃ。十程つくったかの?」
自身の拘りを追求したものでなく、熾天使サージのオーダーで作ったもの。だから、素材が何であるかや、書かれている文字や模様が何を意味しているかをザキーサは知らない。
ただハーピーを救った事実と、まだマジックアイテムが機能していることだけが分かる。
「それは、あちきのと同じかえ」
そして、アミュレットに反応したのは、予想外にアラクネのカスミ。ハーピーの持っているアミュレットと、似たのものを取り出して見せてくる。
ただ、ハーピーの持っているものと形は同じだが、一回り大きく色や模様が少し違う。
「似ているなあ。これはサージ様から、頂いたんよ。これがあったから、あちきも生き死なずに残れたんよ」
それが本当だとすれば、ハーピーの先祖はダンジョンの中で働いていたことになる。
誰でも持っているようなマジックアイテムではない。少なくても、アラクネのカスミ程にダンジョンに貢献し、必要な存在の魔物だったのだろう。
「傷が癒えるまでは、この宮殿の中に居ればイイ。ここもダンジョンの一部。少なくても、エンジェルナイツは手出し出来ないはず」
エンジェルナイツは、堕天使討伐の役割を担っている。エンジェルナイツと堕天使が、交戦状態にある今ならば、少しだけは猶予がある。
「どうする? ダンジョンの中では、ハーピー族は暮らしにくいだろ」
広大なフロアがあるダンジョンならば、翼を持つハーピーも暮らし易い。しかし、ここはまだ出来たばかりのダンジョン。
かといって、機密事項である第6ダンジョンへは簡単に連れてゆけない。中に入ってしまえば、簡単に外へ出すわけにはいかなくなる。契約を行った者だけが、入ることを許されるダンジョン。
「出来れば、ダンジョンの中でお願いしたい。アミュレットが示したのは、ダンジョンの奥底。先祖がダンジョンの中に居たのなら、我らも問題なく順応出来るはず」
「それって、どういうことか分かってるのか? 俺達と契約することになるんだぞ」
「分かっている。全責任はハーピー族のリン……」
最後に名名乗りを上げようとしたが、アミュレットが光を放つと、ハーピーのリンは崩れ落ちてしまう。
アミュレットは淡い光を放ち、リンを包み込む。リンは力尽きたのではなく、アミュレットによって強制的に意識を刈り取られた。これ以上は、生命の危機があるとして。
そしてアミュレットは一筋の光を放つ。それは、第6ダンジョンの最深層を指し示している。
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