第32話 ハーピー達の災厄

「報告します。タカオ方面からのハーピー。数は、現在およそ5百……次々と減っています」


 次第に見えてくるハーピー達の群は、誰もが全身が傷だらけで、力尽きた者から順に墜ちてゆく。すでに、最初の数からは2割程が脱落している。

 しかし、その数はまだまだ加速度的に増え、落ちてゆく女子供ですら助けようとする者はいない。この森に辿り着く頃には、さらに半分も残らないだろう。


「どうします? 助けてやりますか?」


「追いかけてくる者は居るか?」


「今のところ確認出来ません。トレント族の報告でも、ダンジョン周辺の森への侵入者はありません」


「そうだな……何があったか情報くらいは聞き出したい。逃げてくるハーピー達はカシュー隊、落ちたハーピーの捜索は獣人族に任せる」




 全身ボロボロになりながらも、第13ダンジョンの宮殿まで辿りついたハーピーは325体。カシューや聖女クオン率いる獣人族が、森のあちこちで回収したハーピー336体。

 ヒケンの密林には2千体以上のハーピーがいたのだから、ここまで辿り着いたハーピーは3割ほど。


 天使達に執拗なまでに絡んできたハーピー達だが、流石に抵抗する者をおらず、体力の限界だったのか殆どが横たわり動かなくなっている。


 しかし、モニターには1体だけ立ったままの気丈なハーピーが映されている。体は小さく細いが凛とした佇まいで、血塗れでありながら気品さえ感じる。


「黒子の天使、交渉がしたい」


「レヴィン、交渉したいそうだ。どうする?」


 カシューからの通信を受けて、ブランシュを見る。だが、答えは聞くまでもない。魔物であっても、傷付き助けを求める者を見捨てれる性格のブランシュではない。


「助けましょう。それに至急、手当てを!」


「カシュー、取り敢えず宮殿の中に転移させてくれ。ダンジョンの中にさえ入ってしまえば、何が起こってもそれなりに対処出来る」



 そして、カシューと忍装束の獣人達によって、連れられて来られたハーピー。今までにハーピー達を率いてきたボスとは違う個体で、やはり近くで見れば幼さが残る。

 それでも、今まで見せてきたハーピーの狂暴性は、黒子天使達を警戒させ、完全武装した黒子天使が取り囲んでいる。


「安心して欲しい。ウチらは危害は加えるつもりはない、交渉がしたいんだ。もうこの森では、安全に暮らせる場所はない。今までしてきたことから、都合がイイ話ってのは分かっている。だけど、頼るしかないんだ」


 深々と腰を折り頭を下げてくるハーピーの見たことのない姿に、マリク達も驚いている。


「その前に、何があったんだ。話はそれからだ」



 それは、ハーピー達を襲った災厄だった。


 まず最初にハーピー達の前に現れたのは、カボチャ頭の黒い翼の天使。ジャック・オー・ランタンと名乗り、次々とハーピー達に魔法をかけ、眷属としてしまう。


 ハーピーの翼も黒く変わり、瞳は妖しげな赤い光を放つ。ハーピー族の族長ですら、ジャック・オー・ランタンの力に抗うことは出来ずに暴走が始まり、ハーピー達の中で、壮絶な殺し合いが始まる。


 ジャック・オー・ランタンの眷属となれる者は、力を示したものだけ。生き残った者だけが、選ばれた者なるのだと。


「黒い翼か。堕天使が誕生したみたいだな」


「天界でも躍起になって、フジーコとラーキを探していたけど、間に合わなかったみたいね」


「それだけじゃないんだ」


 黒い翼を持ったジャック・オー・ランタンが現れた直後に出現したのは、赤い翼を持った天使の集団。


 両手に持っているのは、鎚や棍といった打撃主体の武器で、とても天使とは思えない。

 不気味に笑いながら、いきなりハーピー達を襲い始めた。眷属となってしまったハーピー達だけではなく、手当たり次第に次々と!

 ハーピー達を殴り付け、骨が砕け肉が飛び散る。悲鳴が上がる度に、愉悦の笑みを浮かべ、さらに殺戮は加速する。


「エンジェルナイツね」


 短く呟く、ブランシュの顔は渋い。噂で聞いたことがある程度で、実際に見たことはない。天界でも殺戮を生業としていると噂される集団。


「エンジェルナイツって、本当にいたのか?」


「ええっ、組織図ではラーミウ様の直属部隊よ」

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