堕天使復活編
第31話 ヒケンの森の異変
俺の影の中に潜ってしまった、狐猫聖女クオン。
影の中は、基本的に暗く冷たいのが一般的らしい。しかし俺の影の中は、何故か暖かいようで、クオンの中の猫としての本能が俺の影を求めてしまった。その結果、生活用品から何から全てを影の中に持ち込んで、勝手に住みかとしてしまった。
お互いの魔力の相性が関係し、ここまで快適な空間は過去にも無かったことらしい。俺がクオンの狐尻尾を触ってしまったのも、相性の良さが引き寄せた結果ならば、俺が抗うことは出来なくて当然だと信じたい。
唯一の懸念事項は、クオンはブランシュに対して見せていた自信。しかし、今の関係性は微妙に変わりつつある。
俺の影の中から上半身だけを出し、完全にだらけきった姿のクオン。ブランシュに自慢した体のラインの、特に胸が強調された格好になってしまい、目のやり場に困る。
「ちゃんと、外に出たらどうだ。行儀が悪いぞ」
「コタツを返してくれた出るニャ。トカゲに言うニャ」
「嫌じゃ。ワシまでブランシュに怒られて、飯抜きにされてしまってはたまらん」
これが恒例となりつつある、ザキーサとクオンが並んで食事を待つ光景。これも、冒険者達にだけでなく、黒子天使達にも見せれない第13ダンジョンの極秘事項。
「お手」
「おかわり」
「よしっ。取り合いしたら、1食抜きですからね」
上質な食料を与えてくれる主人と、飼い猫の関係。そして、ブランシュは少しずつ猫人としての尊厳を壊し始めている。
ダンジョンで働く魔物のスカウトにも目処が立ち、ダンジョンのウリも出来た。ゴブリンだけでなく、コボルトやスライムといった下位の魔物の採用も始まっている。
アジノミ草に、サプリ、熾天使の肖像のレアコイン、そしてダンジョンの深層に眠る熾天使サージ。出来たばかりのダンジョンとしては申し分ない。
「先輩っ、またハーピー達が騒いでますね」
「また、アイツらか」
それは、ヒケンの密林に棲む魔物の中でも、残念な魔物の代表格ハーピー。
広い空間がある巨大なダンジョンでなければ、自慢の翼は役に立たない。かといって裏方の仕事は、長い鉤爪が邪魔して繊細な仕事は出来ない。
第13ダンジョンに関しても、小さなサプリや小瓶を扱うだけに、ゴブリンのような小さな魔物が役立つ。
ただ、ハーピーの一番面倒臭いのは天使に対するコンプレックス。同じ翼がある種族なのに、片や天使と崇められ、片や下位の魔物。
これまでも黒子天使達に、執拗なまでに付きまとい絡んでくる。だから、ハーピーの棲みかである北東の森は避けてきた。
「何すか、これ! ちょっと様子がおかしいっすね」
モニターに映し出される、森の上空の黒い塊。今までも、集団で黒子天使にちょっかいを出してきたことはある。
「数は? 場合によっては、カシューに追い払わせる」
「千以上っすかね……」
「何だってっ、全面攻勢じゃないか?」
それは、ヒケンの森のハーピー総出に近い数。ダンジョンや魔物達の変化を察知したのかもしれない。
「イヤ、少し違うみたいっす。逃げているっぽいっすよ」
黒い塊の中から、ポツポツと脱落し墜ちてゆくハーピーが見える。翼が傷付き飛べなくなる者、身体中が血塗れで力尽きる者と様々だが、戦う様子はなく逃走に徹している。
するとハーピー達の背後の森で、閃光が走る。少し遅れて轟音が響き渡り、モニターの映像が激しく揺れて、画面が乱れてしまう。
「何があった? 他の映像に切り替えろ!」
別の監視カメラの映像に切り替えられると、ハーピー達の棲みかであった森には、幾つもの場所から煙が上がっている。
逃走しているハーピー達の塊も、一回り小さくなり、脱落者は加速度的に増えている。
「警戒レベル4に引き上げる。地上に出ている黒子天使、魔物をダンジョンの中に退避させる。カシュー達をB4エリアに展開させろ」
「ハーピー達は、どうしますか? こちらに向かってきていますが、助けますか?」
「従う者だけは助けてやれ。反抗する者は無視しろ」
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