第30話 2人の熾天使
ブランシュと対峙する、金髪狐猫の獣人聖女クオン。
ブランシュの剣呑な眼差しと雰囲気を感じとって出てきた割には、クオンはブランシュの顔を見て驚き、固まってしまった。
ブランシュのハロの光の影響を受けて、懐柔されている訳ではない。ただブランシュの姿を眺め、クンクンと匂いを嗅ぎ始めている。
「うん、違うニャ」
「一目見れば分かるじゃろ。似ているが、サージ様とは違うわい。暗く冷たい影の中の生活が長過ぎて、目も見えなくなったか」
しげしげと、ブランシュの顔を見ていたがクオンだが、次第にブランシュの全体を見る。
「瞳の色だけじゃない。まだ、2対の4翼ニャ。それに、魔力も僅かに違う。お前、誰ニャ。もしかして真似してるなら許さないニャ」
少しだけ髪の毛が逆立し、僅かに殺気が漏れ出す。
「馬鹿もんが。始まりのダンジョンを復活させた熾天使にして、我が主のダンジョンマスターのブランシュ様じゃ」
そこでクオンが俺を振り返ると、今度は俺をまじまじと俺を見つめてくる。
「ニャに、ザキーサが契約しただと! ご主人様、私の肩書きは何なのニャ」
クオンの意図は分からないが、単にザキーサに対抗しているだけには見えない。
鑑定眼スキルで見えるクオンのステータス。そこにある肩書きは、「黒子天使レヴィンの従者」と「始まりのダンジョンの熾天使サージの聖女」の2つ。クオンが知りたがっているのは、恐らく後者に違いない。
「肩書きは、「始まりのダンジョンの熾天使サージの聖女」になっているぞ」
揉めることを想像していたが、クオンは少し思案し、再び聞いてくる。
「元聖女じゃないのニャ?」
「ああ、「熾天使サージの聖女」になっているぞ」
再び同じ文言を繰り返すと、クオンは破顔する。
「やっぱりニャ。サージ様は消滅なんかしていニャい。なあ、そうニャンだろ、トカゲ」
ザキーサは、始まりのダンジョンの魔物としての契約していた。始まりのダンジョンが崩壊すれば、契約は無効になる。
だが聖女は、熾天使サージとの間に結ばれた契約。肩書きが変わっていないという事は、熾天使サージが生存を証明している。
「それしか考えれんじゃろ。サージ様の遣わした熾天使こそブランシュ様。そうとしか考えられん」
「それにしても似ているニャ、信じられないニャ。懐かしいニャ」
俺達を無視して進んでゆくクオンとザキーサの会話だが、ダンジョンに2人の熾天使が存在することはあり得ない。
天に二日無く、土に二王無。
それは、ダンジョンであっても同じ事。それは、ブランシュが一番分かっているはず。
「レヴィン、心配する必要はないわ。ダンジョンは2つあるんだもの。私には第6ダンジョンがあるのだから問題ないわよ。だからダンジョンコアは、第6ダンジョンに行ったのよ」
「それでも大丈夫なのか? 熾天使になることが夢だったんだろ」
第6ダンジョンは、ブラックアウトし崩壊したことになっている。秘匿しているダンジョンであり、表舞台に出ることのない秘匿されるべきダンジョン。
「だって、ダンジョンのノルマから解放されるのよ。自由に旅行だって出来るし、見てみたい世界は沢山あるのよ」
ブランシュの目は真剣で、その言葉に嘘偽りはない。
「それにダンジョンの奥に眠るのが熾天使サージであれば、他のダンジョンに無いウリになるわ」
まだ未知であるが、ブランシュはサージのことを受け入れ共存を模索している。
「それよりもレヴィンはイイの? 聖女クオンのご主人様なんでしょ」
「熾天使サージに聖女を任命されたクオンの主人」と「第6ダンジョンの司令官」は、実に複雑な関係になってしまう。単純に、「始まりのダンジョン」と「第6ダンジョン」と割り切って考えることは難しくなる。
それは熾天使サージが復活するようなことがあればの話であるが、放置したままには出来ない。
「なあ、クオン。俺の主は、熾天使ブランシュなんだ」
「ご主人様の影の中は暖かいニャ。クオンは、それだけでも満足」
クオンはブランシュの胸の辺りを見ると、ニヤッと笑って余裕を見せる。
「獣人の世界は、一夫多妻ニャ。何も心配することはないニャ」
サクッと宣戦布告したクオンは影の中に潜ってしまい、俺だけが取り残されてしまう。
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