第28話 聖女クオン
ヒケンの密林に出ると、改めてブランシュの熾天使の力を思い知らされる。ブランシュのハロの光は、魔物を浄化したり、魔物を遠ざける力ではなく、敵意を削ぎ懐柔する力。
だからブランシュのつくる洋菓子には、その力が強く込められている。古代竜さえも懐柔してしまう程に。
しかしブランシュの肩に乗ったザキーサは、ハロの光を近くで浴び続けても、殺気を放ち続けている。それ程までに警戒させる存在の聖女。
そして俺達には分からない気配を感じ取ったのか、定位置しているブランシュの肩から飛び立つと、宙でホバリングして様子を伺う。
「蓄積した執念。決して油断するでないぞ」
「ザキさん、何が起こるんだ?」
しかし、ザキーサは何も答えずに結界魔法を放つと、俺達はドーム状の光の中に包まれる。ザキーサが本気を出して放った結界魔法は、幾重にも展開され、それ程までしなければならない強い力が襲いかかってくることを知らせている。
結界魔法の完成と同時に、激しい衝撃音がヒケンの森の中に響き渡る。
地面が揺れ、木々の枝葉が激しく動けば、無数の葉が舞い落ちてくる。それが障壁の上に積もり、次第に暗さが増す。
そしてパリンッと、結界の砕ける音が響く。ザキーサの幾重にも張った結界の数枚は破壊されるが、まだ俺達には空気の振動しか感じない。
カップ狐うどんが、宙に浮かび上がる。
「ザキさん、何が起こってるんだ?」
大地の振動で飛び上がったのではなく、何かに引き寄せられるようにフワフワと宙に浮かび、それをザキーサの結界が阻んでいる。
「だから、言ったじゃろ。猫狐は本気で来ておる」
「猫狐?」
再び衝撃が走ると、結界を覆っていた葉が吹き飛ぶ。結界に刻まれた、無数の引っ掻き傷。
そして、ドーム状の結界の真上に立つ女性の姿。見えそうで絶対に見えないヒラヒラ感。その聖女の衣を纏うのは、フェンリルと獣人の混血聖女クオンしかいない。
「相変わらず、不快なトカゲ野郎ニャ。さっさと渡すのニャ」
「やっと姿を見せたか、この猫狐め!」
「ニャによ、引きこもりのクセに。私がこんニャ結界ごときで足止め出来るとでも!」
すると、地面が隆起する。いや、木の葉の影から伸びる無数の刺。最初こそ細い紐状だった刺は、伸びるに程に太く鋭利に成長する。
しかし影は俺達を無視して、カップ狐うどん目掛けて一直線に伸びてゆく。
「百も承知じゃ。お主には絶対に渡さん」
「やれるものニャら、やってみるニャ」
カップ狐うどんに襲いかかる、聖女クオンが操る影。俺達に向けられていないのだから、一応警戒こそするが、対抗する必要なんて感じられない攻撃でもある。
ただ、不運にもそれに巻き込まれたヤツがいた。
ダンジョンに留守番しているはずだったミショウ。ダンジョンから召喚され、気付けばカップ狐うどんの前に強制転移している。
ミショウの体に、次々と突き刺さる影。竜鱗で覆われた体を、簡単に破壊しミショウの体へと食い込んでゆく。
「相変わらず凶暴さは変わっとらんの。ドラゴンキラーのクオン。じゃが、弱点も変わっておらんじゃろ」
「ニャにを……」
ザキーサが障壁を解除すると、足場を失った聖女クオンが地上へと落ちてくるが、猫人らしく軽やかに着地する。
良く見ればネコ耳だが、尾はキツネ。そして3つの黄金色の尾が、通常の獣人ではないことを示している。
「ふん、3尾に成長したか」
「そうニャ、昔とは比べ物にならない力を見せてやるニャ」
そう言うと、聖女クオンは地面の中に吸い込まれるように消えてしまう。
「影の中じゃ。ここからが、暗殺一族の真骨頂よ」
気配も魔力も感じさせない。恐らくは、無数の影の中から、攻撃を仕掛けてくるのだろう。舞い落ちる木の葉と無数の影。地の利は、聖女クオンにある
「ふんっ、成長しておるのはコチラも同じじゃて!」
ザキーサがアイテムボックスの中から出した、四角い机のようなアイテム。
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