第23話 レアコイン
隠し部屋から次々と発見される大量のサプリ。回収の目処が立ちつつあるが、恐らくは第6ダンジョンの1階層はサプリの保管倉庫になってしまうだろう。
「先輩っ、ゴブリン達の追加募集が必要っすよ。裏方のゴブリンなら、採用条件も緩和出来るはずっす」
「そうだな、次はダンジョンの中の整理もあるし、追加募集かけるか」
「えっ、ちょっと、それって何すか!」
第13ダンジョンは、再利用されたダンジョン。ダンジョンの成長に伴い、始まりのダンジョンの遺物も次々と出てきている。
「朽ちたガラクタばかりならイイ。でも、ラナやサプリのことを考えてみろ」
「そうっすね、変なもんが出てきそうっすね」
破滅したダンジョンの影響か、それとも数千年の時間の影響か、隠し部屋の中とは違って綺麗に形を残しているもの少ない。
全てが朽ち果て原型はなく、手にすれば崩れ落ちてしまう。時折見つかる金属の塊だけが、冒険達の遺品であることを思わせる。
「何すかね、これ?」
マリクが手にしたのは、小さな円い金属。表面にこびりついた埃や泥を払えば、天使が描かれている。
「これ、ブランシュさんにソックリっすよ」
そのコインを鑑定すれば、ただの鉄貨で間違いない。銅貨、銀貨、金貨、白金貨と幾つか種類のある中でも、一番価値の低い硬貨。だが、今流通している硬貨とは全く違う異質なもの。
今の流通している硬貨には、人物像は描かれていない。鉄貨であれば熾天使、銅貨以上は神々が描かれているが、それは簡略化されたシンボル。熾天使であれば光輪と翼、神々は槍や剣・杖が象徴となっている。
しかし、マリクの持っている鉄貨には、目鼻だけでなく豊かな表情までが精巧に描かれ、芸術的な価値を感じさせる。
「ザキさん、この硬貨の熾天使を知ってるんだろ」
「懐かしいの。ワシの造ったプロトタイプじゃ」
ザキーサのアイテムボックスから、次々と硬貨が飛び出してくる。鉄貨もあれば、銀貨や金貨まである。しかし、精巧に描かれているのは鉄貨のみで、他の硬貨はそこまでではない。
「どうして鉄貨だけ、こんなに精巧に?」
「始まりのダンジョンの熾天使アージ様じゃからよ。他のヤツらのことは知らんし、ワシにとってはどうでも良い」
「それにしても、本当に似てるっすね」
マリクは鉄貨の肖像と、ブランシュ交互に見つめている。
「いやあっ、こんな美人の熾天使って、昔もいたんすね。ねえ、先輩」
マリクは俺に同意を求めてくるが、俺が同意すればブランシュを美人だと認めたことになり、それはそれで少し気まずい。
その会話にはブランシュも反応し、僅かに表情が変わる。目尻が下がり目も細くなり、普通は笑い顔に見える。しかし、このブランシュの反応は違うことを、俺は痛いほど経験して知っている。そして、俺が判断を誤った時の代償は大きい。
「似てるな、確かに」
敢えてマリクの投げ掛けを避けて、“似ている”という驚きを前面に出す。それでも、まだブランシュの笑みは続き、俺がどう反応するか様子を見ている。
「こんな鉄貨が出たら、間違いなく大騒ぎになるだろ」
「どこが大騒ぎになるのかしら?」
鉄貨だけが神ではなく熾天使の肖像。しかし、価値は違えども神々と対等に扱われた熾天使。それと似た熾天使が、第13ダンジョンに現れたとなれば何らかの関係性が疑われる。
「やっぱり、第13ダンジョンのウリはブランシュさんしかないっすよ。ラーミウも分かっててやったんすよ」
「それは無いな。これは絶対にラーミウは知らない」
「そんなの分かんないっすよ。可能性は無限大、俺は信じます。ラーミウもブランシュさんの魅力を認めてたんすよ」
「ラーミウの目指す世界はな、合理的でしかないんだ。魔力を効率よく獲得することが全て。鉄貨に注ぎ込まれた技術も労力も全てが魔力の浪費でしかない」
「そうね、ラーミウ様の知らない時代の話でも、不要として排除されたものに価値を見いだされるのは面白くないかもしれないわね」
それには、ラーミウを一番良く知るブランシュはも納得する。熾天使ラーミウであるからこそ、過去の遺産に価値を感じない。
だが、万能ではない者にとっては、ムダな技術や労力にも芸術としての価値を見出してしまう。
「ラーミウは面白くないだろ。遺産の発掘に夢中になる冒険者達の存在ってやつは」
そして、古銭に描かれた熾天使とブランシュを結び付ける者は必ず出てくる。
「これも回収案件ってことっすか?」
「後はダーマさんに任せるしかないだろ。ダーマさんが価値があると判断すれば、俺は大人しく従うだけさ」
「巻き込むのね、後で怒られるわよ」
「いっちょかみしてきたのは、ダーマさんが先なんだ。俺は従順な教え子でしかないさ」
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