第22話 ダーマの呼び水

 第3ダンジョン司令官であり、大学時代の恩師でもあるダーマ。ブランシュが送ったホワイトチョコのラングドシャと、その中に忍ばせていたサプリ。そのお返しが届いた。


「ダーマさんは、何を送ってきたんだ」


「レヴィンに、これを育てさせないさいって」


 サプリの粒を送れば、帰ってきたのは植物の種。サプリと似た大きさではあるが、俺にとってはいかがわしくしか思えない。

 天使に「無償の愛」なんて綺麗な言葉は存在せず、ブランシュであっても都合の良いように利用する。ましてや相手が、散々に迷惑をかけた俺とマリクならば尚更のこと。


「他には? そんな良心的な爺さんじゃないだろ」


「決して枯らすことのないようにって書いてあるだけよ」


 もう嫌な予感しかなく、鑑定眼で見えた結果は、やはり最悪だった。


「はあ~、アジノミ草の種か」


 アジノミ草とは、エリクサーをつくるための素材の1つ。数十ある素材の1つではあるがアジノミ草は、回復効果を高める万能で優秀な素材。

 暗い場所を好み、ヒケンの密林に適した植物といえる。それでも温度や湿度管理が難しく、栽培で成功した例は少ない。


「面倒ごとを押し付けてきやがった。アジノミ草が見つかったことを口実に、ここに先遣隊を送りつけてくるんだろ。そうすればアジノミ草を手に入れるフリをして、サプリを回収できる。あわよくば、第3ダンジョンでサプリを独占してやろうって腹だな」


「どうするの? 今すぐにやれとは書いてないわよ」


「でも、やるしかない。出来たばかりのダンジョンに、最初から安定して冒険者を呼び込むことなんて不可能だ。多少のリスクがあっても、俺はやると分かってるんだから、あの爺さんは性悪なんだ」


「まあ、あなたの恩師ですからね。扱い方も良く分かってるのよ」


「あ~っ、懐かしい香りだと思ったらアジノミね」


 そこにやって来たのはラナ。俺達の会話でなく、匂いに釣られてやってきた。


「あら、ラナはアジノミを知ってるの?」


「うん、姫様とダンジョンで育てたの。大きく成長するとね、イイ匂いがするでしょ」


 ブランシュと俺は顔を見合わせる。俺の知っているアジノミ草は、大きく成長しても10cmほどで、それ以上大きくなったものは見たことがない。それに、匂いがするなんて話も聞いたことがない。どちらかといえば、無臭に近いはず。

 しかし、ラナはドライアドの中でも最上位の精霊。俺達の常識は通用しない。


「なあ、ラナ。この種だけでアジノミ草だと分かるのか?」


「うん、種でも微かな匂いがするもん。証拠を見せてあげるね」


 ラナが種を手に取り、魔力を流し始める。ボワッとした光に包まれた種は、急成長を始める。気付けばラナの手は、アジノミ草で覆い隠されて見えなくなってしまう。


「ほら、アジノミ草でしょ。まだ小さいけどね」


 ここまで成長したアジノミ草は、今までに見たことがない。恐らくは、鑑定眼スキルを使わずとも、最高品質であることは分かる。


「まだ小さいって……これが、もっと大きくなるのか?」


「うん、1m以上になるよ。そこまで大きくしたら、ラナ持てなくなるもん」


 ああ、なるほどなと納得するしかない。そして、恐るべしドライアドの最上位精霊の力。ダンジョンの中で育てたアジノミ草を、ヒケンの森で植え替えることで、簡単に問題は解決してしまう。




 間もなく、第3ダンジョンのダンジョンマスターにして熾天使ラーシェが、聖女に「ヒケンの密林を探索せよ」と天啓を与えた。


 大挙して押し寄せる、ダーマの息のかかった冒険者と商人達。探索としながらも、ヒケンの密林の一部が切り開かれ、次々と建物が始まる。

 そこはゴブ太達の村があった場所であり、ゴブリン達はダンジョンに採用され、もぬけの殻となっている。すべてが無駄なく、効率的に進められる。


 定期的にブランシュとダーマは連絡を取り合っている。恩師と教え子ではなく、上位ダンジョンの裏方トップと、新設ダンジョンのダンジョンマスターの関係。


 アジノミ草に混ざる、危険な匂い。早くダンジョンのウリを見つけなければ、俺達は過労死するかもない。第13ダンジョンの構築は、急速に進み始める。

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