第21話 第3ダンジョン司令官ダーマ

 ラナが作り出したサプリ。継続使用すれば、能力を向上させる。そんなレアアイテムが、第13ダンジョンで見つかったとなれば、冒険者達が押し寄せてもおかしくない。


 ただ、大きな問題がある。誰もサプリのことを知らない。


 俺の鑑定眼スキルでも、やっと効果の一部が分かる程度で、全容解明にはラナの手助けが必要だった。そしてゴブ太の実証試験では、下位の魔物の急成長を促すことが分かった。


 だが、あくまでも継続して使用を続けての話。滅びた廃墟の、初心者向けのダンジョン。そこでドロップする小さな粒に気付ける者は、まずいないだろう。


「サプリを、冒険者達に認知させるかだな」


 既に認知されているものならば簡単だが、新しいものの価値観をそれとなく伝えるのは難しい。せめて、第13ダンジョンに聖女がいるならば、ブランシュの天啓を与えることが出来る。

 しかし、正式にダンジョンとして稼働するには、まだ2ヶ月ある。公式にダンジョンの存在がリリースされていない準備段階のダンジョンには、まだ聖女はいない。


「大丈夫よ。ダーマ先生に相談してあるから」


「ダーマって、あの……」


 俺が洋菓子店計画をブランシュに隠していたと同じで、ブランシュも秘密裏に進めていたことがあった。


「そうよ、第3ダンジョンの司令官にして、私達の恩師でもあり、レヴィンの天敵のね」


 大学時代の俺とブランシュの恩師。優等生であるブランシュは可愛がられ、熾天使への道を拓いてくれた。それに比べて俺は、落ちこぼれではないがサボりの常習犯であり、それを煽動していた問題児。


「先輩っ、第3ダンジョンから通信が入っています」


 マリクの顔も引き攣っている。俺の大学の後輩であるマリクは、俺の開発したサボりテクニックの継承者であり伝導者でもあった。


「心配ない。ブランシュ宛なんだ」


 マリクに言い聞かせるようにしつつ、自分の心の安定を図る。ここはブランシュのダンジョン。第6ダンジョンの副司令官の時だって、ダーマ先生からは連絡の一つすらなかった。きっと、俺のことは忘れている、そうに違いない。


「じゃあ、繋ぎますからね」


 モニターに映し出される、ロマンスグレーの黒子天使。長寿の天使にあって年齢を感じさせるのは、古参の天使である証拠。


「ダーマ学長、ご無沙汰しております。こちらから連絡すべきのところ申し訳ありません」


「よいよい、急造ダンジョンの熾天使にされたのじゃ。そこに隠れている、誰かのせいでな」


 モニターには映っていないが、しっかりと俺の存在は認知されている。そして、いつの間にか教授から学長へとステップアップしている。


「まずはワシの所でダンジョンマスター見習いをさせてからと思っておったのに、計画が狂ってしまった。まあ、お陰で掘り出し物も見つかったがな」


 上位ダンジョンの裏方のトップともなれば、幾つもの役職や要職を兼任している。学長となったダーマは、優秀な人材を自身のダンジョンへと送り込んでいる。それが、上位ダンジョンの存在を、さらに確固たるものとしている。


 そしてダーマが今、手にしているのはサプリの入った小瓶。数千年前の小瓶は始まりのダンジョンの遺物であることを証明し、さらに中に入っているレアアイテムのサプリ。


「どうでしょう。ダーマ学長」


「ワシも始めて見たな。始まりのダンジョンの遺物と見て間違いなかろう」


「破滅し崩壊したダンジョンですが、比較的低層部分はダメージが少なかったようです。ダンジョンの再生により、次々と発掘される遺物はまだまだ出てくるかもしれません」


「これを、第13ダンジョンのドロップアイテムにしようというのだな」


「はい、急造のダンジョンではドロップアイテムの調達も大変なので、あるものは利用したのですが、流石に未知のアイテム。まずはダーマ学長にと思いまして」


 モニター越しでも分かる、ダーマの腹黒い笑み。そして、ダーマと対等に駆け引きするブランシュ。それは、俺が拒絶した世界でもあった。

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