第20話 洋菓子店ブ・ランシュ
腕まくりした両腕を腰に当て、部屋の中を眺めるブランシュに、戦々恐々とするマリクを筆頭とした黒子天使達。
普段は柔和なブランシュだが、今の眼光は鋭く部屋の隅々にまで突き刺さり、そしてニヤリと笑みを浮かべる。
ゴセキの山から戻り、ダンジョンで働く魔物の調達にも目処が立った。そうなれば、堕落した仕事をしていた黒子天使達への粛清が始まる。
「今日から、この部屋を片付けます!」
「うっ、マジっすか」
ブランシュの宣言に、覚悟していたものの黒子天使達は凍りつく。乱雑にしまわれたファイルに、高く積み上げられた書類の山。もう、何時の仕事なのかすら分からない。
とにかくブランシュには、この状態が許せない。仕事に対してではなく、綺麗に収納したいのだ。
「この部屋だけじゃないわ。その内、マリクの部屋だって片付けます」
「えっと、それは……仕事は関係ないっすよね。オレっちのプライベート空間っすよ」
「あら、ここは私のダンジョン。そのスペースを貸し出しているよの。私は家主なんだから、部屋は綺麗に使ってもらわないと困るの」
圧倒的に男比率の高い黒子天使の世界。誰も見ようともしなかった、ダーティーでコアな世界にまで介入されるとあって、黒子天使達の動揺は大きい。
「ちょっと待ってくれ、ブランシュ。悪いが緊急の仕事があるんだ」
「レヴィン、甘やかすのは良くないわよ。いざという時に、通用しなくなるわ」
「分かってる。ここはブランシュのダンジョンなんだ。俺も、それに従ってるだろ。でもな、ブランシュにしか出来ない優先の仕事があるんだ」
黙って、机の上に計画書を置く。
「これって、何なの?」
と聞いてくるものの、それが何かは表紙に大きく書いてある。「洋菓子店ブ・ランシュ1号店建設計画」のタイトル。
「いやな、 魔物達がブランシュのクッキーを要求してくるんだ」
ブランシュのつくったお菓子は魔物達を魅了している。ホワイトなダンジョンを謳い文句にしているだけに、その声を無視することは出来ない。他の黒子天使がつくったクッキーを試してはみたが、反応は全く駄目。やはり、熾天使ブランシュがつくったクッキーでないと、魔物達を魅了する効果はない。
新規採用枠は100名だったが、それを遥かに上回る200名の採用した。ゴブリン以外にも、コボルトやスライムのダンジョン見学の申し込みも来ている。
そして日を追うごとに、皆が口を揃えて「クッキーよ寄越せ」の大合唱。ダンジョン内アンケートにも、多数の要望が寄せられている。労働時間を増やしても、クッキー寄越せと!
「流石にこの結果は、無視出来ないだろ」
「そうね。これは、私にしか出来ない仕事よね」
熾天使となった者の力に、魔物を魅了する力があるとは聞いたことがないが、ブランシュの洋菓子は魔物達を魅了している事実。
そして喜ばれれば、当然ブランシュも悪い気はしない。間違いなく、この計画に乗ってくることを知っている。洋菓子店は、ブランシュの幼い頃の夢の一つなのだから。
「まずは、1号店をオープンさせる。今後のダンジョンの拡大状況に応じて、ダンジョン内にも幾つか支店を出し、ゆくゆくは地上にも進出する」
「そうね、分かったわ。今回は、こっちを優先にするしかなさそうね」
黒子天使達から歓声が上がる。ブランシュの洋菓子が手に入りやすくなることと、シンデレラフィットからの解放。
「でも、私1人では無理よ。流石に人手が足りないわ」
「リリカとレンファがいるだろ」
すでにエプロン姿の2人が居る。もう根回し済みで、2人のやる気も半端ない。
「ラナも調合得意!」
そして、仲間外れにされまいと、ラナも参戦してくる。見た目は少女でも、俺達より長く生きる精霊。始まりのダンジョンでは、ひたすらにサプリを量産し続けていた。
それに千年もの間、崩壊したダンジョンに閉じ込められ、何もする事のなかったラナ。とにかく、暇に飽きてしまっている。
「分かったわ。まず、先にサプリの案件を片付けましょう。そうすれば、そっちに集中出来るわ」
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