第24話 益魔物アラクネ
ダンジョンが成長するにつれ、次々と排出される始まりのダンジョンの遺物。
しかし、排出されるのは遺物だけとは限らなかった。
「先輩っ、何か出てきたらしいっすよ」
明確な報告を求めているが、どの報告もが曖昧。瓦礫の山を取り囲む黒子天使達は、異様な緊張感に包まれている。
瓦礫の山の中から発見されたのは、筒上で繭のような塊。ただ繭は黒く、朽ちた残骸の中にあって妖しげな光沢すらある。
「オレっちの鑑定眼スキルは、全く通用しないっすね」
マリクの鑑定眼スキルでは正体を特定出来ない。鑑定眼に頼りすぎた、よくある黒子天使の弊害でもある。
スキル使えば簡単に分かってしまう為、実際に物を見て判断することをしない。だから未知のものを観察し、そこから推測する力は弱くなってしまう。
分かることは、黒い繭は不気味で、かつ直感で危険と感じとっているだけ。
「だから、いつも言ってるだろ。本当に鑑定眼スキルを鍛えたければ、もっと多くを見て、知ることだってな」
そして黒い繭を見た瞬間に、俺は思わず天を見上げてしまう。
「先輩、大丈夫っすか? やっぱ、これって激ヤバなヤツなんすね」
繭を囲んでいた黒子天使達が、一斉に距離を取る。
「アラクネ……じゃないか」
「えっ、アラクネって伝説級の蜘蛛っよ。これって何かの繭じゃないんすか」
「繭じゃない、アラクネの巣だ。この大きさなら、中にいるのは間違いなくアラクネの成体だろうな」
さらに黒子天使達が距離を取り、俺とマリクが先頭になってしまう。ゆっくりと後ろに下がろうとするマリクの腕を掴む。
黒く光沢のある糸。それは、まだアラクネが死んでいないことの証でもある。
「なあ、マリク。お前、第13ダンジョンの副司令官だろ」
「イヤ、オレっちはまだ、副司令官補佐代理見習いのままでイイっす」
「あのな、天界じゃあスケープゴートを探してるんだ。生存が確認されている第6ダンジョンの最高責任者として、責任を取るって選択肢もあるんだ」
「えっと、そうでした、思い出しました。オレっち第13ダンジョンの副司令官でした」
「そうだな。じゃあ、副司令官なら、そろそろ直属の魔物が居てもイイんじゃないか。自由に使える駒は欲しいだろ」
「ちょっと、それは。いきなりアラクネなんて、無茶振りっすよ」
「いや、マリクにお似合いだ」
始まりのダンジョンの清掃をしてくれるのが、ドライアドやトレント達。それと、アラクネの相性は実に良い。
トレント達が嫌う害虫をアラクネが駆除し、また枝葉や根は、アラクネや蜘蛛達の隠れ家となる。
確かにこれだけの規模のトレント族がいるのなら、アラクネが居てもおかしくない。むしろ、アラクネが居なければ、ここまでのドライアドやトレントも力をつけることは無かったはず。
「なあ、アラクネとラナの相性も悪くないんだ。将来のことを考えれば、きっとラナの為にもなる」
「そこはブランシュさんじゃ、ダメなんすか?」
「ブランシュは、最上位の精霊ラナと古代竜ザキーサと契約したばかりだぞ。今、これ以上の負担をかける訳にはいかない。勿論、俺が契約してやりたいのは山々なんだが、地竜のミショウが居るしな」
それでも、マリクは煮え切らない態度でいる。
「アラクネは、美女だ。巣の大きさからして、間違いなく成体。ラナとは違う大人の女性だ」
ただ、問題なのは黒い糸。暗闇に紛れ、捕食することに特化している糸。俺が見たことは無い不確定な要素であり、それだけに敢えて口にしない。
「ブランシュのクッキーだってあるんだ。古代竜をも虜にするクッキー。心配する必要なんてないだろ」
「そうっすか。なら、やってみますか」
マリクがチョコチップクッキーを手に、アラクネの巣に手を伸ばす。もぞっと巣が蠢いたと思えば、変化は一瞬だった。
黒い巣糸がマリクのクッキーを持った手に絡み付き、次第に範囲を広げたかと思えば、次の瞬間には完全にマリクを飲み込んでいる。
その驚愕の光景に、ざわめく黒子天使達。
「大丈夫だ。マリクの魔力はしっかりと感じるだろ。死んではいない」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます