第14話 古代竜ザキーサ
俺とブランシュの足元に、青白く光る魔方陣。
「これが、レヴィンの転移魔法なのね」
「まだまだ熟練は上げる必要があるが、これが俺の奥の手さ」
さらに魔法陣に複雑な模様を描かくと、次第に光は濃く輝きを増す。複雑な紋様になればなるほど、転移にかかる時間は短くなる。その転移魔法を完成させるのに約3分。
「でもな、ラーミウのヤツは化物だよ」
「それはそうよ。熾天使筆頭を千年務めている実力は、神々も認めているもの」
転移魔法が使える天使は、天界の中でも少ない。黒子天使では、片手で数える程だろう。その中でも、ラーミウの転移魔法は別格で、早すぎる魔法の発動は。魔法陣すら見えない。それだけでラーミウの規格外の強さを思い知らされた。
「マリクだけには、秘密にしておいてくれよ」
「ええっ、分かってるわよ。貸しにしといてあげる」
転移魔法で、簡単にダンジョンの下層から上層までを行き来できるようになった黒子天使には、過重労働の最悪の未来が待っている。
何も生み出さない無駄時間も、健全な心身を維持する為には必要。それが、ダンジョンの黒子天使を長く続ける為の叡知。
「さあ、転移するぞ。屈まないと、痛い目に遭うからな」
「えっ、屈むの?」
俺が屈むと、ブランシュも慌てて姿勢を低くする。
明るい室内から、転移した先は小さな洞穴。屈んでいなければ、頭をぶつけるどころか、間違いなく上半身は岩の中。
「なあ、立っていたら危なかっただろ」
ブランシュの顔が引き攣っている。少し間違えれば、ダンジョンが立ち上がる前に、前ダンジョンマスターと呼ばれることになっていた。
「もう少し、丁寧に教えてくれても良かったんじゃないの」
「仕方がない、ここは古代竜ザキーサの棲家。詳しくは話せない契約なんだよ」
「でも、何でこんな場所なの?」
「それも百聞は一見にしかず。俺が言っても、信用しない。まずは、あそこだ」
俺の視線の先には、小さな扉がある。岩が剥き出しの、くり貫かれただけの洞穴とは違う、明らかに加工された凝った意匠の施された扉。
「あの先が、古代竜ザキーサの棲家なの?」
「ああ、そうだ。ザキーサの棲家だ」
狭い洞穴の、小さな扉。その扉を開ければ、大きな空間が広がってはいない。屈まずに立てる高さはある。しかし、少し大きな応接室といった空間。
「レヴィン、ここで合ってるの? 誰も居ないわよ」
「居るだろ。そこに!」
「黒子の小僧。何度も言うておろう、ワシを指で差すなと!」
「ザキさん、仕方ないだろ。そうしないと誰だって認識出来ないんだから」
ソファーの上には、3頭身のデフォルメされたドラゴンの姿。パッと見はぬいぐるみで、ゴセキ山脈の魔物を統べる絶対王者の姿には見えない。
「どうした、ブランシュ……」
絶対に想像出来ないザキーサの衝撃的な姿に、ブランシュは言葉を失っている。いや、溢れ出す衝動を必死に抑えている。その証拠が、僅かに前に出ている両手。
「ブランシュ、ゴセキ山脈の主にして、最強種の一つ古代竜だぞ」
それでも、俺の声はブランシュに届かない。このままいけば間違いなく、ザキーサを抱っこしに行ってしまう。
「ダメだ、遭遇するだけで天界への報告案件。接触じゃない、触れようものなら査問委員会にかけられるぞ」
「はっ、私……何をしてたのかしら」
ここで、ブランシュがやっと我に返る。そして、ゆっくりと前に伸ばした手を戻そうとする。
「ザキさん、違うんだ。悪気はないんだ」
しかし、俺の弁明も間に合わなかった。ブランシュが伸ばした手の上に、小さな翼をはばたかせたザキーサが舞い降りる。
「うむ、似ているが、瞳の色も魔力も少し違うな。お前さんは何者じゃ」
ザキーサの意味深な言葉は気になるが、それ以上に気になるのはザキーサの表情。小さな鼻がクンクンと動き、同じく小さな尾は勢い良くブンブンと振るわれている。
「初めまして。第13ダンジョンのダンジョンマスターのブランシュ。レヴィンの」
「そんなもんは、どうでも良い」
ザキーサの視線は、ブランシュ腕に掛けられた紙袋を凝視している。
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