第13話 いざ、ゴセキ山脈へ
俺の目の前で大量の荷物を広げ、古代竜ザキーサに会いに行く準備を始めるブランシュ。特質すべきは、全ての物がコンパクトに纏められ、小分けにされていること。
「ブランシュ、あのな……」
「ダメ、これは絶対にダメ。幾らレヴィンの頼みでも、譲れないものがあるの」
ブランシュは食い気味で、俺に話させるつもりは全くない。
俺が知っている、ブランシュの唯一でもあり最大級の欠点は、相変わらず変わっていない。変わらないことが嬉しくもあるが、第13ダンジョンのことだけを考えると胃が痛くなる。恐らく、ブランシュを歓迎する声以上に、抗議の声が殺到するだろう。
それは「シンデレラフィット」への異常なこだわり。いや、取り憑かれていると表現すべきかもしれない。
ここから見える範囲の机の上も棚も、乱雑といってイイ。真っ先にダンジョンマスターの強権が発動されるが、そこはマリク達に任せるつもりでいる。俺はダンジョンの指令官になったのだから、他の者の業務を奪うようでは、立派な管理職とはいえない。
気を取り直して、ブランシュに視線を戻す。ザキーサに会いに行くだけの旅支度。しかも全てアイテムボックスの中に入れるのだから、大きさなんて関係ない。個別に仕分けたことが、かえって取り出し難くさせてしまう。
それでも、アイテムボックスの中であろうが、ブランシュの拘りは一切揺るがない。
「それは、良く分かってる。でもな、言いにくいんだけど」
「じゃあ、何の問題があるのかしら?」
ガイドブックに日焼け止め、アイマスク、簡易加湿器、リップクリームにボディクリーム、スリッパに、各種サイズのジップロック。どうみても、旅行準備にしか見えない。
大学を卒業後、ブランシュは熾天使を目指し、天界で神々に仕えることを選んだ。神々の我が儘には、休みも時間も関係ない。
それを知って、俺は地上に降り、黒子天使になることを選んだ。天使に生まれれば、自由なんてあるわけがばう。それでも、天界にいるよりはダンジョンの中の方が自由がある。
「ザキさんの所にはな……残念だけど転移魔法で行けるんだ。日帰りどころか、片道3分なんだ」
「えっ、一週間はかかるってガイドブックに書いてあったのに」
ブランシュの落胆は大きく、薄っすらと涙が滲んでいる。
「何で、どうして? レヴィンが転移魔法を使えるって、聞いてないわよ。あっ、また悪さしようとして、私に隠してたでしょ」
「いや、ちょっと待て。俺だって第6ダンジョンの副指令官だったんだぞ。何回かは限界突破してる。何時までも大学時代の能力のままじゃない」
「でも、教えてくれても良かったでしょ。こっちから連絡しても、繋がらない。返信だってこない。そんな便利な魔法があるなら、簡単に帰ってこれたでしょ」
会話すればするほどに、悲しみが怒りに変換されてゆく。
「そうだな、ダンジョンマスターなんだし、ヒケンの森周辺の事は知っておかなければならないかもな。でもな、隠匿のマジックアイテムが必要だろ」
ブランシュは一瞬だけ安堵の表情をみせたが、俺が光輪を指差すと、その問題に気付いてくれる。
「そうよね、熾天使なれはしたけど、これはこれで困ったものなのよね」
熾天使になったばかりのブランシュは、光輪の加減が出来ていない。熾天使の存在を知らしめるハロの光だから、目立たせる為にある。その分、お忍びや隠密行動には不向きになってしまった。
「第13ダンジョンが無事立ち上がるまでには準備しておく。それまでは我慢してくれ」
「そう、約束よ。後で、忘れてたって誤魔化すのは無しにしてね」
寂しそうに、広げた道具を片付け始める。そして、1つだけ残った紙袋。
「ブランシュ、その紙袋は?」
「やっぱり、レヴィンがお世話になってる相手なんでしょ。手ぶらでなんて行けないわよ。古代竜なら尚更じゃないかしら」
「そんな間柄じゃないと思うんだけどな」
「知ってる? もらって嫌な顔する人なんていないわよ。ましてや魔物なら尚更ね」
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