第12話 ダンジョンの魔物事情

 ブランシュの顔が引きつっている。俺やマリクが、ダンジョンで無茶をしているのは予想していたはず。だが、古代竜まで出てくると想像出来るわけがない。


「仕方がないだろ、こればっかりはダンジョンの機密事項。それを俺達が、勝手にバラす訳にはいかないんだ! そうだよな、マリク君」


「えっ、そっ、そうっすよ、先輩の言う通りっす!」


 ダンジョンの魅力を向上させる為の魔物。だが、ダンジョンが勝手に魔物を産み出す。そんな都合の良い話は、数千年かけて先人の天使達がつくりあげたものでしかない。

 ダンジョンで働く魔物をスカウトするのも黒子天使の重要な業務の1つ。地上でも幅広く活動し、もちろん上位の魔物の入手先は秘匿される。


「古代竜は違うでしょ。最上位種の魔物との接触は、世界のバランスを変えてしまうかもしれない重大懸案事項。接触した場合は、必ず天界への報告が義務付けられているはずよね」


「それはな……フジーコとラーキの仕事じゃないかな。俺は副指令官だから、厳密には責任者じゃない。まあ、あの上司だから仕方がないかもな」


 さらに、こめかみを押さえるブランシュ。ダンジョンマスターも司令官の不在をイイことに、好き放題やっていたのも見透かされている。


「第6ダンジョンが無事で良かったわ。報告書も残ってるはずよね」


 報告書は提出してる。しかし膨大な報告書に紛れ込ませた、たった1枚のメモ程度の紙切れ。ハンコを押すだけが業務の、フジーコもラーキも中身は一切中身は把握していない。


 そして分かりやすく動揺したマリクが、不用意に隠せもしない棚の前に立ってしまう。


「分かったわ。それは後でゆっくり確認します。じゃあ、次はこっちね。ミショウは大丈夫なんでしょうね?」


 ブランシュの冷たい言葉に、ミショウがビクリと動き、あからさまに顔を背ける。


「ああ、あれは大丈夫だ。歴とした従属契約の魔物。天界に届出も出してる。魔力を提供するだけの、タダ働き同然の魔物だから気にしなくてイイ」


「竜種が、そんなわけないでしょ」


 ダンジョンで魔物を働かせる。それには、力でねじ伏せるも由、契約を結ぶも由、それは個々のダンジョンの裁量に任されている。だが、竜種は違う。簡単に服従するとなんて普通はあり得ない。


「やっぱ、ダメか……な?」


「ええっ、誤魔化せるわけないでしょ。さっさと白状しなさい」


 ブランシュが小さくため息をつく。普段は絶対に見せないため息。それは怒りが最高潮に達する前のサインでもあり、過去の経験からこれ以上逆らっては危険だと知っている。


「一応な、口止めはされてるんだ。それも、古代竜のザキさんからだぞ。それにミショウのプライドもあってな」


 第6ダンジョンの30階層以降の、特に上位種の魔物。その大半はゴセキ山脈から調達している。その中でも、地竜のミショウは、上位の魔物。


 俺とカシューがゴセキの山の麓で、魔物をスカウトしていた時に、それは突然起こってしまった。

 ボロボロにされて瀕死のミショウ。それを引きずりながら、古代竜ザキーサが現れる。偶然の遭遇ではなく、俺達を探していた。


「なあ、ザキさんにボコボコにされて、ゴセキの山を追い出されたもんな」


「うっさいドラ。あんな窮屈なところ、オイラから抜けてやったんドラよ」


 しかし、ミショウの目には怯えが隠せていない。


「じゃあ、ゴセキにミショウも来るか?」


「オイラは、このダンジョンがあるドラ。誰がコア守る。今のこのダンジョンの守護者は、オイラしかいないドラ」


「私も行くわ」


「ラナはどうする。寂しがるんじゃないか。ラナも1人にしてはならない存在だろ」


「ラナは大丈夫だよ。爺もいるし、それに今までもずっと独りぼっちだったもん。ちょっとくらい我慢出来るもん」


「というわけで、私も行きます。あなた達に勝手にさせてはいけないわ」


「分かったよ。でもザキさんは、騒がしいのを嫌う。行くのは、俺とブランシュの2人だけだぞ」

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