第15話 ブランシュとザキーサの契約
ザキーサの視線の先には、ブランシュが持ってきた手土産の入った紙袋がある。
「お土産に持ってきたの。食べる?」
ザキーサの尻尾の勢いは激しさを増し、何も言わずともブランシュの言葉を肯定している。
「分かったわ。ちょっと待っててね」
ブランシュが屈むと、その意図を察したザキーサは床の上に降りる。そして、紙袋から取り出されたのは、ブランシュお手製のクッキー。
保存の魔法がかけられていたクッキーは、出来立てのままで、それを一つ摘まむとザキーサの前に出す。
「待てっ、待てよ!」
口を開きかけたザキーサだったが、突然ブランシュから掛けられた「待て」に呆然としている。
「これはね、私のつくったチョコチップクッキーよ。食べたい?」
コクコクと頷き、さらにザキーサの尻尾は暴れるように振り回される。
「そう、じゃあ待て。まだ、待てよっ!」
予想外のお預けを喰らったザキーサ。そのブランシュの言葉に、ザキーサは何も発しない。必死に堪えているが、尻尾振った勢いは徐々にクッキーの方へと体を押し出す。
我慢出来ていない。見てはいけない古代竜の情けない姿。
だがデフォルメされたザキーサの姿は、究極の進化形態。強くなればなる程、体に蓄積される魔力は膨大になり、それに伴い体は巨大化してしまう。
それを極限まで圧縮し、小さくしたのが今の姿。だから、ザキーサの作り出す火の玉程度の魔法でも、山一つを軽く吹き飛ばすだけの威力がある。
「ちょっと待て、ブランシュ。何やってるんだ」
「レヴィンは黙ってて。こういうのは、最初が肝心なの!」
「あのね、私とダンジョンに一緒に来れば、もっと色んなものが食べれるわよ。どう、一緒に来る?」
ザキーサは激しく頷き、同意を示してしまう。誰も屈服することが出来ない強さの象徴が、意外な方法で完全に懐柔されようとしている。
「よしっ、お食べっ」
がっつくザキーサ。少し間違えれば、ブランシュの手は消えてなくなる。だが細心の注意を払ったザキーサは、器用にチョコチップクッキーを咥えている。
それからは、ただ餌付けされる光景を黙って見守るしかない。絶妙なタイミングで、次々と差し出されるクッキーと、ブランシュから投げ掛けられる言葉。それに、頷き同意するだけのザキーサ。
「レヴィン、連れて帰ってもイイ? ちゃんと責任持ってお世話するわ。それに見た、とってもお利口なの」
チョコチップクッキーを平らげたザキーサは、今はブランシュの肩の上に乗り、そこを定位置と決めたようだ。
「はぁ~契約してしまったんだろ。熾天使の契約なら、もう俺にはどうも出来ない。そんなで大丈夫なのか……ザキさん、俺は知らないぞ」
古代竜と契約した熾天使も、熾天使のペットと成り下がった古代竜も聞いたことがない。ザキーサも、それが分かっているのか、ブランシュの肩で寝たフリをしている。
「ザキさんがブランシュと一緒に来るのは自由だ。でもな、ゴセキの竜達には説明してくれよ。一歩間違えれば、俺がラドル達に殺される」
「心配するな。ワシは、昔始まりのダンジョンで暮らしておったのじゃ。ここは借りぐらしの拠点、本来の居るべき場所に戻るのに、誰にも文句は言わせん」
さらっと告げられた、衝撃事実に言葉が出ない。
「今はゴセキの山を、全てラドルに全てを任せておる。ここ数百年は口出しもしておらんから、何の問題もない」
面倒事が嫌で、巨大な竜達が入ってこれない地中に棲みかをつくった。地上で大暴れし、この棲みかにも影響を与えたミショウは、ザキーサの逆鱗に触れゴセキの山から強制退去されられた。
「頼むから、問題だけは起こさないでくれよ」
「ふんっ、貴様にだけ言われたくないわ。ホレ、これをくれてやる」
ザキーサの前に現れた、ブラックホールはアイテムボックスの魔法。そこから、飛び出してくる鈍色のアイテム。
「このバレッタは、もしかして」
「そうじゃ、隠匿のバレッタ。ハロの光を封じるアイテムが必要なのじゃろ」
俺は俺で、古代竜ザキーサに簡単に籠絡されてしまった。
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