past
2633年 6月月 22日
「気をつけ!礼!」
「「「お願いします!」」」
「あーいいか?今お前らがつけているそのIRゴーグル。元になったモデルは約609年前には既に存在していたと言われていて——」
薄墨色の液晶に映る講義資料の数々に視界を支配される。こうやって講義を受けているとつくずつ思うが、文明とは大きく進化したものだ。
太古の昔、我々人類は狩猟により生き延びていたらしい。それが約3万8千609年程度でここまで進化するとは。
全ての事象は情報化され、このIRゴーグルを通じていつでも閲覧できる。靴には完璧に制御された超小型原子炉と翼が備えられ、人は空を飛ぶ。
科学が進歩に進歩を重ね、今までの歴史を形作ってきた。もちろん、その中で数々の障害にぶつかった。
『工場乱立による空気汚染』、『未知のウイルスによるパンデミック』、『過度な森林伐採による地球温暖化』など、挙げ始めればキリがないが——
だがそれらの問題が起こるたび、必ず科学がそれらを解決した。
「気をつけ!礼!」
「「「ありがとうございました!」」」
さて、これで今日の講義も全て終了だ。さっさと帰って明日のテストの準備をしないと——
その思考を遮ったのは、一人の少女だった。
「——♬」
白いワンピースに、麦わら帽子を被った少女。木から生える枝に腰を下ろし、足をバタつかせながら鼻歌を歌っている。
珍しいな。
彼女の目元にゴーグルは装着されておらず、その足にはサンダルを嵌めていた。最近ではIRゴーグルと原子ブーツが主流になり、ほとんどの人が身につけている。だからこそ、17歳ほどの少女が何世代も前の格好をしていることに違和感を覚えた。
まぁ僕には関係のないことだろう。
そう思い、ブーツの回路を点火したところで——
「ねぇ!君!!」
僕は彼女に、呼び止められた。
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