第24話 決闘、フォース・ロッド

 アイビスとの決闘を承諾した翌日。


 今日は休日なんだけど、学園の決闘場には大勢の生徒が詰めかけていた。


「ブラッドリー先生って魔法のコントロールがすごいんだろ? 一度生で見たかったんだよな」

「どっちが勝つと思う?」

「さすがに先生でしょ。でもオレはカフネディカのお嬢様に賭ける!」

「水晶レモネードはいりませんかー。爆弾ポップコーンもありますよー」


 賭けを取り仕切る生徒に加え、お菓子やジュースを販売している売り子までいる。


 教師と生徒の魔法戦闘に、ちょっと注目しすぎじゃないか?


「先生、がんばって」

「ああ、任せろ。敵を取ってやる」


 観客席からユウリがエールを送ってくれる。

 今日の戦いを見て、彼女も自信を持ってくれたらいいんだけど。


「ようやくあなたと戦えるわね。もちろん本気できなさいよ」


 決闘場を進むと、前から来たアイビスが声をかけてきた。

 早くも杖を出していて、自信満々に笑みを浮かべている。


「それでは決闘を開始します。お二人とも準備はよろしいですか?」

「待て、ジャッジ。今回の決闘にはこれから提案するゲームを採用してもらいたい」

「なによいきなり」

「まずはルールを説明する」


 俺はジャッジを制止して、ここに来る前に考えたゲームを話すことにした。


 アイビスの想いはよくわかったけど、やっぱり生徒を攻撃する気にはなれない。

 これはそのための取り決めだ。

 ジャッジのマイクを借りて、観客席の生徒たちにも聞こえるように言う。


「まず先攻と後攻を決める。そして「杖に従え」のかけ声で、先攻は杖を上下左右いずれかの一方へ振る。後攻もかけ声と同時に顔を上下左右いずれかの一方へ向ける。杖の方向と顔の向きが一致すれば、先攻の勝ち。次は後攻が同じことを行う。これを一セットとして最大五セットまで行う。相手より多くのセットを取った者が勝者だ」

「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ! いきなり変なゲームを押し付けないで! あたしは魔法戦闘がしたいの!」 


 アイビスは突然に出された取り決めに、怒って声を上げる。


「ゲームを拒否するなら決闘はなしだ。不必要に生徒を傷つけるつもりはない」「っ……わかったわよ。それでいいわ。でも魔法は使わせなさいよ!」

「もちろんだ。ただし先攻後攻とも魔力を練り上げ呪文を唱えるのは三分以内。そして決闘中は足元を円で囲み、円から出た場合は即座に敗北とする」

「それって、ルールに従わなくても勝つチャンスがあるってことよね?」

「ああ。魔法での攻撃を望むならそうしろ。俺はやるつもりはないがな」


 長くなったけど、これでルールの説明は終わりだ。

 これならアイビスを傷つけずに、決闘を終わらせこともできる。


「変な決闘だけど認めてあげるわ。そのゲームはなんて名前なわけ?」

「フォース・ロッドが俺が名付けた」

「フォース・ロッド、いいじゃない。さっそく勝負よ!」


 こうして俺とアイビスの決闘は、フォース・ロッドで行うことになった。

 足元に円を描き、相手から四メートルほどの距離を取る。


 じゃんけんで先攻と後攻を決め、俺が先攻になった。


「なんか色々言ってたけど、これってあっち向いてホイだよな?」

「あっち向いてホイだと思う」

「杖で勝ちの数を競うあっち向いてホイだよね」


 難しいルールだけど、観客席の生徒たちは理解したみたいだ。

 アストラル魔法学園に入学できるだけあって優秀だな。


「それでは改めて決闘を開始します。お二人とも準備はよろしいですか?」

「ああ」

「いつでもいいわよ」

「決闘、フォース・ロッド開始!」


 まずは先攻の俺が杖を振るターンだ。


「デネブレ・レイス……」


 内練式で手早く魔力を練り上げ、アイビスに聞こえないように小声で呪文を唱える。


「サラマンダー・レジスト……」


 アイビスも同じように呪文を詠唱している。


「あっち向いてホイなのに魔法を使う必要あるの?」

「確率は四分の一だよな」

「円から出しても勝ちみたいだから、防御魔法は使ったほうがいいんじゃない?」


 観戦している生徒の中には、わかってる子もいるみたいだ。

 でも俺の狙いは直接的な攻撃じゃない。


「いいわよ。いつでもきなさい」


 アイビスは先に呪文の詠唱を終え、腰に手を当ててポーズを取る


「いくぞ」


 三分経ったので、俺は向きを決めて杖を振った。


「杖に従え」


 俺から見て左方向に杖の先を動かす。

 一方、アイビスは顔を右方向に振った。


 初めは緊張していた顔が、見る見るうちに笑みへと変わっていく。


「よし! あたしの勝ちね!」

「そうはどうかな」

「えっ!?」


 アイビスの笑みはすぐに凍り付いた。

 途中まで右を向こうとしていた顔が、方向転換して左に動き始めたからだ。


 最終的に俺の杖は左を指し、アイビスの顔も左を向いていた。


「先攻、ブラッドリー先生1ポイント!」

「まずは一勝だな」

「う、ウソでしょ!? どうなってるわけ!?」


 ジャッジが勝利数を読み上げ、俺は軽くガッツポーズをする。


 ゲームの勝ち方はいろいろ考えていたけど、ここまで楽勝だとちょっと申し訳ないな。


「こんなのおかしいわよ! あたしは右を向くつもりだったのに! なにかズルしたわね!」

「魔法を使用するように言ったのはそっちだ。だから使わせてもらった」

「……まさかこれって……」


 アイビスは表情をこわばらせて、ゆっくりと後ろを振り向く。

 そこには、顔の周りで指をワキワキさせるゴーストがいた。


「【死霊の手助け】、一年生でも覚えられる闇属性の魔法だ。荷物運びなどに使われることが多いな」


 この魔法なら俺の思い通りに方向に顔を動かすことができる。


 防御魔法の干渉を突破できないと困るから、魔力を練り上げは三節詠唱並みにしっかり行っておいたけど。


「ゴーストに顔に向きを変えさせたわけ!? ズッル! この卑怯者!」

「おいおい、ひどい言いがかりだな。魔法で相手を動かしちゃいけないなんてルールはないぞ」

「……入学する前にあなたの評判を二つ聞いた意味がわかったわ。一つは精密な魔法操作ができる優秀な教師だけど……」

「もう一つは?」


 俺が訊ねると、アイビスは顔を真っ赤にして叫んだ。


「卑怯で陰険な最低最悪教師よ!」


 それは間違ってないな。

 久々に原作そのままの評価を聞いて、俺は大きく頷いた。












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