第13話 無双先生

「ど、どうなってんだ!?」

「いくらなんでも速すぎんだろ!」


 不良生徒たちが魔法の発動スピードに驚いている。


 弱いものイジメばかりで、魔力を練り上げる鍛錬を怠っているなら。そういう反応になるだろうな。


 内練式と外練式を、無人島でひたすらやり込んだ成果だ。


「くらえ! シルフ・ショック【風精の刃】!」

「ノーム・ショック【大地の礫】!」


 不良生徒たちは俺の左右に回り、呪文を唱えてくる。


 風の刃と石の弾丸がこちらに向かってくるが、そこで【死霊の外套】が効果を発揮した。


 怨嗟の声を上げる死霊が壁となり、攻撃魔法を弾く。


 相手の防御魔法が強力なら、魔力を多めに練って魔法の威力を上げる必要がある。


 不良生徒たちにそこまでの技量はなく、想定通り魔法そのままの威力だった。


 これなら新たに防御魔法を展開する必要はなさそうだな。


「くそっ、なんで効かねえんだよ!」

「こっちは二人がかりなんだぞ!」

「終わりか? なら、俺のターンだな」


 水属性の魔法を乱射してくる不良生徒に、俺は狙いを定めた。

 内練式で一瞬にして魔力を練り上げ、魔法を放つ。


「デネブレ・ショック【影の一撃】」

「ひっ、ウンディーネ・シールド【水精の盾】!」


 身体の正面に集中した水の盾に止められたけど、防御に集中しすぎたせいで足が硬直している。


 あれじゃいい的だ。


「デネブレ・ディスアーム【外套引き裂く黒爪】」

「ごっ……ぐがぁっ!」


 武装解除で杖を弾き飛ばし、衣服を防具とみなして衝撃を与える。

 しばらくはまともに動けないだろう。


「ショックを軸に攻めるのは魔法戦闘の基本だが、魔力を練り上げが甘い。威力も速度もお粗末で、他の魔法とのコンビネーションもできていない。教科書を開いて基礎から学び直すべきだ」

「黙れ! 説教してんじゃねえ!」

「シルフ・ショック【風精の刃】!」

「ノーム・ディスアーム【鉄鋼錆びる泥土】!


 俺の言葉が勘に触ったのか、基本攻撃魔法に加え武装解除を連発してくる。


 

 どうやら魔法戦闘では冷静さが重要だということすら、わかっていないようだ。


「わたしもやらせて。守ってるだけなんて屈辱」

「俺一人でもう終わる。無理をするな」

「たしかに先生は強いみたいだけど……頼りっきりなんて……」


 ユウリは悔しそうに、ごにょごにょと唇を動かしている。

 学年一位の実力者が、見てるだけってのはプライドが許さないか。


「別にお前の実力を低く見てるわけじゃない。大きな怪我をしてほしくないだけだ。三年生複数はキツいだろう」

「平気。わたしだって魔法使いなんだから」


 俺の言葉は耳に入っていないようで、ユウリは外練式で魔法を発動する準備を始めた。


 魔力の流れはスムーズで、杖に不必要な負荷もかかっていないけど、この瞬間に攻撃されれば、いま展開している防御魔法だけで守るしかない。


 まあ不良生徒たちの意識が俺に向いている、いまなら問題ないと思う。

 何かあった時のために、守れる距離は保っておくけど。


「ヘイズは糞雑魚じゃなかったのかよ!?」

「こんなの聞いてないよ~ん!? どうなってんだよギースくん!」

「うるせえ! 攻撃を止めんな!」

「何度やってもそのレベルの魔法では無理だ。デネブレ・レイス・シールド【死霊の外套】」


 効果の薄れてきた防御魔法を上書きする。

 これでしばらくは問題なく戦えるな。


 それにしてもこいつら、頭に血が上りすぎてないか。

 視界に俺しか入ってないな。


「おい! 内練式じゃ限界だぞ!」

「魔力を集めてデカいのをブチ込むしかねえ!」


 大地属性の不良生徒二人が、大気から集めた魔力を杖の先で練り上げていく。

 光りが渦を巻き、空気がビリビリと振動する。


 たしかにこれだけの魔力で魔法を放てば、死霊の外套を破壊することができるかもしれない。


 放つだけの時間があればだが。


「魔力充填。ルクス・ルクス・ルクス・チェイン……」

「馬鹿! いますぐ防御魔法を使え! のんきに魔力練ってる場合じゃねえ!」

 ギースが気づいたがもう遅い。

 ユウリはたっぷりと時間をかけて、外練式で魔力を集めていた。


 杖の先端が激しく光り輝き、四節詠唱によって強化された魔法が発動する。


「全員逃がさない【光輝の大縛鎖】!」

「うわああああああああああああああああああっっ!?」

「あっ、あれはなんだよ!?」


 地面に展開した魔法陣から、光の鎖が幾筋も伸び、獲物を狙う大蛇のようにギースたちへ向かっていく。


【光輝の大縛鎖】は拘束魔法の中でもレベルは高い方だ。

 本来上級魔法生物に使う鎖が、自動でターゲットを捕縛する。



 この魔法は俺でも本気で対処しないとヤバいかもしれない。


 それにしても、よく勉強しているな。

 新入生が覚えている魔法でも、時間をかければここまでの威力を出せるわけだ。

 さすがは原作主人公ってことか。


「ヒッ……お、オレは知らないよ~ん!」

「ハァ!? 背中向けてどうすんだよ!」

「クソッ、防御魔法を全力展開! そんで魔力を大気から──」


 不良生徒二人はパニックになり、ギースだけがまだやる気のようだ。

 だが、この判断の遅さじゃ、迎撃も防御ももう無理だな。


「「「ぐあああああああああああああああああぁっっ!」」」


 叫び声をハモらせながら、ギースたちはピンッ直立を強制される。

 全身が光の鎖でグルグル巻きで、もう身動き一つとれないだろう。


「威力も発動までの時間も悪くない。八十点だな」

「あれだけ時間があれば簡単。わたしを舐めないで」

「褒めているわけだが」


 プイッとユウリは横を向いてしまうが、少し声がやわらかくなっている気がした。

 俺の魔法戦闘を見て、少しは見直してくれているといいんだけど。


「すげー戦いだったな」

「ヘイズ先生ってあんなに強かったんだ。見直しちゃった」

「ユウリっていう一年もやるな。実戦で四節詠唱なんて中々やれるもんじゃない」


 ギャラリーから呑気な声が聞こえてくる。

 ひょっとして、もう決闘が終わったと思ってないか?


「クソが……オレを馬鹿にするんじゃねえ……」


 ギースの魔力が急激に高まっていく。

 どうやら拘束される前に詠唱を終えていたようだ。


 怠惰な不良生徒だと思っていたけど、昔は天才だったタイプみたいだ。

 むしろ本番はここからかもしれない。


「跪け! 雑魚教師とクソ女があああぁああああああああああっ!」

「まだやるつもりなの?」

「俺から離れていろ。防御魔法に専念してギースを刺激するなよ。あれは少々マズい」


 ギースの身体が膨れ上がり、異形に変化していく。


 恐らく肉体強化と獣化の魔法だと思うが、明らかに自分が制御できる魔力量を超えている。


 これが大気から無尽蔵に魔力を補給できる外練式の弱点だ。

 使用者が制御に失敗すれば、魔力の暴走を許してしまう。


「GYAGAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッ!」


 怪物になったギースは、耳まで裂けた顎を開き咆哮を上げた。

 空気を震わせるほどの大音量に、観戦していた生徒たちは耳を押さえる。


 その姿はワニの頭と尻尾にゴリラの身体をしたキメラのようで、体長は八メートルを超えている。


 ところどころに刃物のような鱗があり、ギラリと光っていた。


 とても健全な状態には見えない。

 決闘場の外に出せば、生徒たちにも被害が出そうだな。


「GARUUUUUUUUUUUUUUUUUUッ!」

「──っ! なにあの姿……」

「完全に自我を失っているな。少し本気でいく」


 俺は改めて杖を構え、怪物と化したギースを見据えた。



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