第3話 俺のステータス低すぎ!?

 主人公以外の好感度に興味はなかったけど、ここまで低いとさすがに傷つく。

 嫌われすぎると情報収集にも苦労するし、今日から改善していこう。


 その前に、さっきの会話で気になるところがあったな。


『実は魔法が下手って噂があります。高等部の生徒の方が上手いんじゃないかって』


 このセリフだ。


 俺の魔法が下手だって? 

 まさかまさか、さすがに魔法学園の教師でそれはないだろう。


 たしかに専門は魔族学だが、戦闘魔法の心得だってあるはずだ。

 魔王教団だって、戦闘力皆無の雑魚をスパイにはしないだろう。


 実際アースゴーレムは倒せたわけだし。


「……問題ないはずだ」


 不安じゃないはずなのに思わず口が動いた。

 本人の記憶があっても、それは原作で行動した部分が中心になる。


 原作で言及されることが少ない箇所は、かなり曖昧なのだ。


 これは主人公周りの、メインキャラクターじゃないから仕方ないのかもしれないけど。


 心配ないとは思う……でも、一応念のために図書室に寄って、いま使える魔法を確認しておこう。


「こちらの魔導書でよろしいですか?」

「うむ、これでいい」


 ステータスを計測する魔導書を、司書に頼んで借りることにした。。

 表紙に手を触れると、中のページに俺にできることが浮かび上がる仕様らしい。


 小説だと巻末に載っているおまけ情報なのだが、実際に読むことができるのは助かるな。


 ヘイズは闇属性の魔法をよく使っていた気がするんだけど、さてどうなっているか……。



 ──────────────────────────────────



《ヘイズ=ブラッドリー》


 ・魔力量:4000

 ・使用可能な魔法の属性、または効果。


 ・デネブレ(闇属性)ランクB

 ・カース(呪い)ランクB

 ・レイス(死霊使役)ランクC

 ・ディスアーム(武装解除)ランクD

 ・ショック(基本攻撃魔法)ランクB

 ・チェイン(拘束)ランクE

 ・レジスト(魔法障壁)ランクC

 ・シールド(魔法盾)ランクD

 ・フライ(飛行)ランクE



 ──────────────────────────────────



 ちなみに一般的な魔法使いの魔力量は約2000。

 ランクCのメイン魔法を三つ、DかEのサブ魔法を四つは使える。


 大魔導士の育成を目的とする学園の教師や卒業生なら、魔力量は約7000。

 ランクAのメイン魔法を六つ、BかCのサブ魔法は十は持っていて当然だ。


 ちなみに最終巻の主人公は、魔力量約35000。ランクSのメイン魔法を七つ、ランクAかBのサブ魔法を十六は習得している。


 俺……Aランク一つもなくないか?

 これじゃ一般的な魔法使いと比べても、まあまあ強いくらいのレベルだ。


 とてもじゃないが、強大な敵から生徒を守れる実力じゃない。

 そりゃ高等部の方が魔法が上手いと噂されるわけだ。


 思い返してみればヘイズって、一・二年生の主人公には嫌がらせをするけど、それ以降は出番も控えめだよな。


 原作でも四巻以降は、ろくに戦っているシーンがなかった気がする。

 やってることは内通者として、魔王教団に情報を流すことがメインだし。


「由々しき事態だな」


 主人公を影から助ける前に、俺の実力がまったく追いついていない。


 このままじゃ実力がバレた時点で、魔王教団には始末され、魔法学園には解雇されそうだ。


 というか、よく学園の教師になれたと思う。

 たしか魔王教団の関係者に貴族がいて、そのコネだったと思うんだけど。


 これ学園と魔王教団両方に実力を詐称してるな。

 なんか頭が痛くなってきた。


「切り替えていくしかないな」


 まずは俺自身が強くならないことには、どうしようもない。

 そうはいってもそんな簡単に強くなる方法なんてあるか?


 十代の生徒ならともかく、ヘイズもう二十九歳、アラサーなのに。


 魔法を習得はともかく、魔力量を増やすには生まれ持った才能に加え、二十歳までの努力に大きく左右される。


 ここで手を抜くと常に魔力の残量に気を使いながら、魔法を使う羽目になるというわけだ。


 歳をとってから魔力量を増やすには、文字通り血を吐く修練が必要な可能性もある。


 そして、ヘイズは明らかに努力をさぼっていたタイプだった。


 才能はそれなりにあるみたいだけど、努力していないせいで魔力消費の激しい。Aランク以上の魔法を覚えられないんだろうな。


 早くも詰みそうな転生ライフだけど、ここであることを思い出した。

 原作で四巻で主人公が魔法の修行をする展開がある。


 あれをやれば強くなれるんじゃないのか?

 ただ教師の俺が同じことをできるかが、問題なんだけど。


「悩むより先に行動せよ。時間は有限なのだからな」


 原作のヘイズは慎重すぎて、チャンスを逃すことが何度もあった。

 もう同じ失敗はしない。


 俺は足早に学園長室に向かった。






「おやおや、ブラッドリー先生血相を変えてどうしたんじゃ?」

「学園長、折り入ってお話しがあります」


 休日にも関わらず、カルネス=ゴッドフリート学園長は書類に目を通し、承認のハンコを押していた。


 大らかな顔つきで、顎には真っ白な髭をたくわえている。


 年齢は五百歳を超えるそうで、二百年前に魔王が復活した際も、封印に協力したという伝説が残っている。


 学園長自身も大魔導士なのだが、いろいろ訳あって学園からは出られない。

 このあたりは原作十巻以降で明かされる話だったと思う。


「カルネス学園長は多忙なのです。要件があるなら手短にお願いします」


 秘書のセレスが眼鏡をクイッと上げ、冷たい眼差しを送ってくる。

 かなりの美人だが、俺には石の下にいる虫を見る目つきだ。


 忙しいところ悪いのだが、こっちも命がかかっている。

 俺はここに来るまでに考えていたことを行動に移した。


「話しというのは、俺を魔法使いとして鍛え直していただきたいのです」


 高級そうな絨毯の上で、完璧なフォームの土下座を決める。

 学園長は東洋の文化にも詳しいから、こっちの覚悟は伝わっているはずだ。


「頭を上げてくれんかね。なぜ急にそう思ったのじゃ?」

「この学園に来て、自分の実力不足を痛感したのです。未来の大魔導士を育てる立場として、このままでいいわけがないと気づかされました。いまよりも強くなれるなら、時の中で何年でも何十年でも鍛錬をする覚悟です」


 学園長の“時”を操る魔法なら、この世界と違う空間を作って、一時間で一日分の修行ができる。


 原作の主人公はそれを使って、魔王教団の幹部と戦えるレベルまで、強くなれたわけだ。


 俺だって同じとまではいかなくても、かなり強くなれるはずだ。


「わしの魔法を目当てにしておるのなら不思議じゃのう。時の魔法はごくごく一部の者しか知らないはずじゃからな」


 ヤバい。

 原作ではそうだったのか。


 小説の内容を曖昧にしか覚えていないのが、ここにきて足を引っ張ってる。


 魔王教団が俺にかけた高位読心防止魔法は、原作後半でないと突破できないことになっているから、ここで正体がバレることはないと思うんだけど。


「なにやら深い事情があるようじゃな。それを説明することはできるかのう?」

「……申し訳ございません。。これ以上のことは言えません」


 俺が転生者で魔王教団のスパイということまでは、さすがに言えない。

 言えばストーリーが大きく変わって、この先の展開が予想できなくなる。


 カルネス学園長は髭をさすりながら、続きを口にした。


「わしは成長する気持ちがある者を無碍にはせん。ブラッドリー先生が望むのなら鍛えてもかまわんよ」

「よろしいのですか? この男にはなにか裏がありそうですか」

「それも承知の上でじゃ。セレス、わしを信じなさい」


 よし、学園長が原作通りのお人好しで助かった。

 あとは時の魔法を使ってもらうだけだな。


「ただ、わしはこのあとどうしても外せない用事があってのう。急いでおるようじゃし、セレスに鍛えてもらうのがよかろう」

「が、学園長!? 私がでしょうか!?」

「そ、それはその……」

「心配ない。セレスは魔法について十分な知識と実践経験があるからのう。きっと強くなれるはずじゃ」


 まってまって、それは話が変わってくる!

 というかセレスの実力ってどれくらいだったっけ?


 原作で活躍したシーンが少なすぎて思い出せない。


 いや、それ以前に女性と二人っきりというのは困る。

 一度発動した時の魔法は、条件を満たさないと解除できないからだ。


「では送ろうかのう。コール・アルカディア【箱庭の理想郷】」

「学園長! 待ってくだ──」

「あの、やはりもう少し考えてから──」


 言い終わる前に、学園長室の天井に渦巻のような空間が出現し、俺とセレスを吞み込んだ。



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