第15話:その後

 一生懸命頑張ってはいるけど素人丸出しの動画は収益化には程遠く、コンテンツとして成立しているのか自分でも疑問だった。

 しかし上から目線のの指示は「炎上させないで」「バズらせもしないで」だから、鳴かず飛ばずで上出来、単価アップを要求した。


 結局、榛名は裁判所に「嫡出ちゃくしゅつ否認の訴え」とやらをしなかった。

 子どもが生まれてから1年以内じゃないとできないのに。


 その代わり、離婚が成立したら奥さんと子どもはパリに移住することになった。

 養育費は出すが、顔は合わせない。

 「彼女のことだから、すぐ再婚するよ」とのこと。

 この件での一番の被害者は彼女の子どもだと思うけど、将来その子と財産を分け合うという修羅場を押し付ける榛名も大概たいがいだ。自分の不能を知られたくない、でも実子として全財産を残すのも嫌、だから若い男を養子に取ってせめて半々にさせる・・・なんてふざけてる。もっともそれを受け入れる僕も大概だ。


 離婚したら、10部屋ある自宅のうちの1部屋を動画のための作業部屋にするという。

 専用エレベーターに僕の指紋認証も追加して、自由に出入りができる。

 ・・・でも、同居は拒否した。

 榛名と同じセレブ生活はしたくない。

 記者に怯えながら木造アパートに帰ってスリルとともに寝たい。

 虚構と現実を行ったり来たり、自己の肥大と委縮を繰り返しながら、それでも榛名に求められたい。


 もう後戻りできないなあと思いながら、スライドドアを閉めて帰宅。

 PCを開いて、自分の記事を書く。榛名のつまらない経営論を思い出しながら、収益化できるビジネスモデルを模索する。

 もし完成したら、「榛名さんの孫だよ」って見せてやろうかな。

 きっと喜んで、でも馬鹿みたいに口を出してくるだろうから、その時はフェラーリでぶっ飛ばして怖がらせてやろう。いやだからそれにはまずMT免許を取って、えっと、経費にするにはどうやって・・・ああ何だよこんな時に。

「・・・あ、はい、もしもし」

「紺野君?遅くに申し訳ないんだけど、今から来てもらえないかな」

「急ぎの案件ですか?」

「ああ、急ぎで。すごく、とても」

 受話音量を上げても拾いきれない低音をこのまま聴いていたいけど、別の欲求も込み上げてきて、仕方なく軽に飛び乗った。

 




(了)

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