第14話:養子
動画配信事業の準備には数ヶ月かかった。
結局、減価償却が面倒だからと車はカーリースにして、個人事業主として僕が契約した。事業実態がまだないので審査に通るかわからなかったが、連帯保証人に榛名の名前を書くと問題なく納車された。頭金は要らないが、月額料と駐車場代だけ毎月かかる。
今のところ、何の保証もない自己責任の契約。
誰かに言ったら「やめておけ」と止められるだろうが、あの秘密を知っている僕は、フワフワした気持ちのまま色んな手続きをした。なんだ、ビジネスって意外と簡単だ。
夏の終わり、まずは下見と撮影テストのため、丹沢へ。
榛名はゆくゆく離婚が成立するまでは大人しくしているということで、最小限の顧問の仕事と、この配信だけをやるという。
・・・電話でも、外で会っても、記者の目を気にしてか、榛名はあくまで「配信者とスタッフ」として僕と話した。
車中でも後部座席で仕事をし、上から目線の経営論は1ミリも面白くない。あの女優がデート中にこれをどう我慢していたのか心底知りたかった。
榛名が素の顔を見せたのは、キャンプ場のかなり外れの不便な山の中。
「ここね、これのために買った私有地だから」と、慣れないテントを張り、カレーは断念してお湯を沸かしカップ麺。
暗くなり、寒くなり、サルのようなキツネのような声がする。
持ってきた毛布では寒すぎて、「初心者にありがちな失敗だ」と笑った。
「紺野君、よかったら身体を温め合わない?」
「・・・プッ、なにそれ」
「だめかな。ベタすぎる?」
「・・・白状する?僕とやりたかったって」
「・・・」
「なんでだよ、ずうっとスタッフ扱いでさ」
「・・・うん」
「そういう、どっちつかず、卑怯だよ」
「時間が必要だったんだ、いろいろ。・・・君のことを見極めるのに」
「は?どういうこと?」
「身辺調査ってやつだよ。今後関係を結べる相手なのか、調べさせてもらった」
「・・・なにそれ。信用できないってこと?」
思わず大きな声を出し、「週刊誌の記者が来ても何も言わなかったのに?」と恩着せがましいことを言ってしまう。
「そうか、それは済まなかった」
「いいよそんなこと。それで?何だよ、何がしたいんだよスケベ親父!」
「ひどい言われ様だな。取引相手の信用調査くらいで」
「・・・な」
「君、身寄りがないんだってね。両親を早くに亡くして高卒で就職。結婚歴なし、これといった資産もなし」
「・・・」
「・・・この間も話したとおり、ぼくは、・・・子どもができないから」
「・・・」
「それなのにこのままだと、離婚をしても彼女の子どもはぼくの実子ってことになって、いつかは全財産を相続することになる。だから・・・」
君を養子にして、ぼくの資産を半分相続してもらいたい。
「・・・な、何言ってるの、200億の半分って、100億!?」
「その頃にはもっと減ってるから大丈夫」
「でも、そんな・・・は、榛名さん、さすがに冗談でしょ。また経費とか節税?」
「・・・また、プライド、・・・かな。認知しないためにはぼくの事情を裁判所に明かさなきゃいけない」
「いや、だからって」
「卑怯なんだ、君を金で釣ってるんだよ」
「ふざけんなってば。僕は金目当てなんかじゃない」
「ぼくも、カラダ目当てじゃない」
「え、いや、ちょ・・・言ってることと、やってること」
冷たいマットに押し倒されて、滅茶苦茶に求められた。
「やっ・・・、榛名さ・・・やめっ、あっ、そんな・・・っ」
まるで、薙ぎ倒されるような。
強い荒波に身体ごと持っていかれるような。
・・・圧倒的な雄。
ああ、こういうエネルギーを抱えてなきゃ、事業なんて生み出せないのかも。
穏やかで奥手な紳士なんかじゃない、卑怯で狡猾でプライドだけが高い確信犯。
「は、榛名さん・・・っ、も、だめ・・・激しすぎ・・・っ」
突き上げられて、悲鳴にも似た懇願。時々、意識が飛ぶ。
「むり、だよ・・・こんなの、止められ、な、い・・・んんっ」
重低音が耳元で響く。
もしかして、男相手なら、出来ないことを意識しないで済むから思いっきりできる?
まったく、都合がいいよなあ。
でも、榛名は法的には妻帯者なんだと思うと背徳感でさらにキモチよくなる僕も、似た者同士だなあと思った。
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