第3夜 生ショコラ

バレンタインデー間近に、親類に贈る為のチョコレートを選びに、百貨店の催事場へ足を運んだ。


始めに、お馴染みのブランドから、ひやかしてみる。


どれも美味しそうだが、やっぱり高いな…。


もっと手頃な価格の物は、無いのだろうか。

とびきり上質で、お洒落で、それでいて、さりげなくて、値段もとっても安い物。


そんな身勝手なチョコレートは、ある筈もなく。


私は一度売り場を離れ、冷や汗をかきながら、胸の内で財布の中身とにらめっこをする。


そうこうしている間にも、まるでバーゲン会場かと見間違える程に、目の前で飛ぶように売れてゆくチョコレートの山、山。


牙城はどんどん崩され、最早、私に迷う猶予はなさそうだ。


そんな中、要冷蔵の、お高そうなチョコレートを見つけた。

小さな桐箱にキッチリ詰められた、ダイスカットの生ショコラ。


ウイスキーやブランデーが香り高く、滑らかに練り込まれている。


これは…私が以前、派遣で勤めた食品工場で、製造していたチョコだ!


遠方へ越して来てから、もう見ることは無かったのだが、どうもバレンタインの催事期間のみ取り扱っているらしい。


私は郷里が懐かしくて、嬉しくて。


社員割引で購入していた頃を思い出しながら、新商品の日本酒味と、ホワイトベリー味の二箱を購入した。


さて、予算の都合上、プレゼント用しか買えなかったが、味は大体、分かっているのだ。


私は自分の分は、作ることに決めた。


ブラック、ホワイトの板チョコを三枚ずつ、それと生クリームを一パック(これは多すぎるので、後でクリームチーズと蜂蜜と練って、パンに挟んでいただく)。


そして、好みのフレーバーを少々。


今日は、冷凍庫に残っていた柚子皮と、レーズンとナッツを入れた物の、二種類を作ろうか。


チョコは割って、軽くレンチンして取り出し、混ぜながら滑らかに溶かしていく。

そこに、生クリームをほんの少量ずつ加えて、ひたすらに混ぜる。


ホワイトチョコのボウルには、刻んだ柚子皮とホワイトリキュールを少々。


ブラックチョコの方には、レーズン、ナッツを細かく刻み、ラム酒も入れよう。


後は、ラップに平たく包んで、冷蔵庫で一晩寝かす。


明日、キンキンに冷えたショコラを包丁でダイスカットにし、ホワイトには粉砂糖、ブラックにはココアを振って、完成だ。


あぁ、明日のティータイムが楽しみ過ぎる。これで、今夜も安心して眠れそうだ…。



















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