第24話 魔術師、同世代と集まって談義する

 学校終わりの二人を出迎え、多少は驚かれたものの、そのままパストラルの家へ移動した。

 ただ。

「実家に言伝だけしておくから、先に行ってて」

 と、レリアは少し遅れることとなる。いつもなら一緒に行くし、実際は薬の件でもうパストラルは顔を出して、レリアもこっちに泊まるだろうことは伝えているが、あえて何も言わなかった。

 とりあえずリビングに腰を落ち着け、紅茶と買っておいた菓子類を少し多めに皿にのせて出す。遠慮せずどうぞと、一言添えるのも忘れない。

「ところでカーネさん」

「うっす」

空間転移ステップの術式に関して、どのくらい知識がある?」

「実際の理論については、何もないっす。移動っすよね?」

「そうだね」

「時間と距離が関係するとは思うんすけど……長距離なんかは、あれっすね、扉を開いてあっちとこっちを繋げるって感じで」

「――いや」

 そこで、ファレが口を挟む。

「術式では、空間そのものに作用できない。イメージとしては、ゲートを開いてあちらとこちらが繋がっているものがわかりやすいが、空間は折りたためない」

「そうなんすか」

「ははは、そういうわけで、ファレはずっと考えているようでね。もちろん、方法は一つじゃない。逆に言えば、空間を折りたたまないゲートがあるのなら、それはそれで空間転移だ。ぼくが見たのは、フォードの転移式だけど、ぼくと同じ理論を使ってたよ」

「ほう」

「……あー、確かレリア先輩のおじいさん。大公老師でしたっけ」

「ただの気の良い老人さ。さて、じゃあ一つの正解を出そう。正解というか、一つの理論と言うべきだね」

「わかっている。結果はどうであれ、過程はそれぞれ違うものだ」

「魔術の面白いところっすね」

「結論を言おうか。そもそも、

「――なに?」

「移動してない……移動、しないんすか。んん……ん? あー、いや、でも……ええ? パストラルさん、できるんすか? できるっていうか、じゃあ短距離と長距離じゃまったく別の術式ってことっすか?」

「何に気づいた、カーネ。説明を」

「や、合ってるかどうかわかんないよ? わかんないけど、自分が移動しないなら、周囲が変わるってことじゃん。でも周囲を変えるっておかしい」

「そうだな……待て、そうか、だから変わらない、いや、――」

 二人の視線が集まったので、小さく笑って頷いた。

「そう、ぼくもフォードも、基本部分はそこを利用してる。つまり、

 つまりその理論は、定義の方向性がまるで違う。移動における距離や速度、精度、そうしたものを考察し、術式を構成しない。

「どちらかといえば、世界におけるルールを誤魔化す方向性だね」

 二つの場所を、同一である、と定義する魔術構成を組み、その二つが同一シムならば、そもそも移動自体が誤魔化せる。違う場所に移動していたところで、それは移動ではない。同じ部屋の中を歩くこともせず、本人はただ、そこにいるだけだ。

 同じ場所から動いていない。

 結果だけ、移動している。ただそれだけなのである。

「そうか、お前が言っていた同じ部屋とは、そういうことか。扉を開くまで中身はわからんが、開いてしまえばわかる。そして奥にある扉を仮に開いて、まったく同じ部屋があったのなら、人であろうとも、振り返って、確認したくもなる。ここは同じ部屋か? それとも違う部屋か――」

「そう、認識を誤魔化す。とはいえ、同一の部屋を作るっていうのも現実的には難しいから、ここで置換リプレイスの術式理論を使うわけだ」

「確か、場所の入れ替えっすね? でもあれって、無機物に限定されてるような話を、どっかで見た気がするんすよ」

「さすがに部屋ごと交換ってわけにはいかないね、ほとんど単体に向けられる術式だ。でも置換術式の構成も、だいたいは対象二つを、同じものとして扱うことが多いんだよ。簡単に考えて、まずは質量を同一にする」

「あー、そうやって精度を上げるんすね? 似たようなものを、同じものに誤魔化した結果、それが同じ部屋になる――って感じで」

「概要はそうなるね」

「へええ、面白いっすね。ファレくんは体験したんでしょ? どんな感じ?」

「どうもこうも、部屋に案内されて、中に入った時点ですべて終わっていた」

「ああー、迷路と同じ原理っすね。右か左か、扉を選ぶ感じで、でも扉は一つしかないって感じっすか?」

「その表現は簡単で的確だね、うん、その通り。ぼくもそうやって説明したら良かったかもしれない」

「どもっす」

「ふむ……カーネは今、どのようなところを勉強しているんだ?」

「最近は属性付加エンチャントをよく調べてる」

「ほう、何故だ?」

「鉱石そのものの特性を見てて、その特性部分だけを抽出できないかなーと考えてたんだけど、それって属性として扱えるんじゃないかと思って。たとえば雷の誘導にしても、鉄の特定属性を相手に付けるだけで、いけるんじゃないかって」

「――特定しなくても良いと思うけど」

「へ? どういうことっすか?」

「いや、鉱石そのものを属性として捉えて、鉄を相手に付加したらいいんじゃないかな」

「えっと……」

 そこで、玄関の方から、ただいまと声がした。

「――おかえり、レリア」

「うん。あ、ちょっと待ってて、着替えてくる」

「わかった」

 レリアはそれだけ言って、奥へ姿を消した。

「……着替えがあるんすか?」

「そりゃあるさ。ぼくがこっちに来てる時は、レリアもここで過ごすからね」

「長いのか」

「どうだろう、四年くらいになるかな」

「そうか。――すまない、話が逸れたな」

「ああうん、そうだね。そもそも属性っていうと、地水火風天冥雷ちすいかふうてんめいらいを思い浮かべるだろう?」

「そうっす」

「まあ、そういう教育システムだから当然なんだけど、本来、属性なんてものは人の認識なんだ。わかりやすく言うと、そうだな、うーん……たとえば、壁なんてどうだろう」

「壁っすか?」

「……? そこの壁か?」

「うん、まあ、何だっていいんだよ。そこそこ大きくて、ちょっと迂回しなくちゃいけないくらいの高さがあれば、人はだいたいそれを壁だって認識するからね。天井だって、同じものが目の前にあったら、壁だって思うだろう?」

「そうっすね」

「ファレ、きみの頭上に壁を作ったから、軽く立ち上がってみるといい」

「――、……む」

 座ったまま上を見たファレは、何もないのを目で見てから、ゆっくり立ち上がるが、上半身を起こそうとすると、後頭部が何かにぶつかった。

「空中に、というか空気に、壁という属性を付加したんすか?」

「正解だ。属性付加エンチャントっていうと、いわゆる物体における属性を見たくなるんだけど、それに限らないんだよね。何がどうとは言わないけど、案外、大雑把でも構わないし、逆にいうと変なものまで属性としてくっつけるよ」

「なるほど、勉強になるっす。――面白そう」

 それは良いことだと思っていたら、制服から着替えたレリアがやってきた。

「なんの話?」

「今ちょうど、属性付加のことを話してたんだよ」

「ああ、あれ」

 ほぼ無意識に、当たり前のようレリアはパストラルの隣に座った。

「あたしが二つ目に教わった魔術ね」

「そうなんすか?」

「うん、自己防衛のためにね」

「先に種明かしをしてしまうと、ぼくやレリアは常時展開式リアルタイムセルで、食べるものには、っていう属性を付加してるんだ」

「――」

「おい……それはまた、だいぶ定義が広範囲だろう。かなり複雑な術式にならないのか?」

「それを上手くやるのが魔術師だろう? 社交界で毒を入れられたり、アルコールで酔ったりするのを避けるための手段だよ。ああ、そういえば、きみたちはまだ常時展開式は使っていなかったっけ」

「初めて聞いたっす」

「私は知っていたが、知っているだけだ。構築方法がそもそもわからない」

「最初と最後を繋げてループさせながら、普段生活してるだけで出ている魔力で動くよう、コストを削減するだけだよ」

「だけ、とは簡単に言ってくれるな」

「簡単だよ、作るだけならね。でも常時展開してると、どうしたって同業の魔術師には見抜かれる。多すぎても警戒されるし、少なすぎても補強できない。そこのバランスが重要だ」

「うん、あたしもそのバランスはまだ試行錯誤してる」

「人によって、魔力量は違うから、どうしてもね。格納倉庫ガレージだって常時展開式の一つだし」

「あー、なんでも物入れみたいなやつ、先輩が使ってるのちらっと見たことがあるっす」

「あんなもの、高難易度の筆頭だろう」

「あたしは一番最初に教わったけど」

「あはは、これも作るだけならそう難しくはないさ」

 言いながら、格納倉庫に手を伸ばしたパストラルは、それを取り出した。

「こっちに顔を見せたのは、これをレリアに渡そうと思って」

「あ、パズル? フユ様から?」

「残念、水の大公老師が持っていたものを譲ってもらったのさ。好きにしていいよ」

「うん」

 受け取ったレリアは、やや厚めの宝石がついたカードを取り出し、箱の上に置いた。

 黙ったまま、二十秒ほど経過してから。

「ふうん……」

 カードを外し、箱を手にして術式を分解。箱の形が変わり、中から宝石が出てきた。

「どう?」

「簡単。でも、学生にはちょうど良いかも」

「残念ながら、弟子にやらせるパズルらしいよ」

「あ、そう」

「じゃ、いつも通り送り返すから、改良しちゃって」

「うん」

「……あのう、なんすかそれ」

「いわゆる結界みたいなものだよ。術式で封じてあるから、まずは解析して、一つずつ手順を進めながら解除していくと、最終的に箱が開くっていう、遊びを含めた魔術の勉強かな。やってみるかい? それなら、簡単に作るけど」

「お願いします――あ、や、あの、今日は自分も泊まっていいっすか?」

「うん、構わないよ」

「じゃあ一度、うちに戻って話をしてくるっす。すぐ戻るんで!」

「いいよ、ゆっくりしておいで。夕食もそう思って、四人分のつもりで材料を買っておいたから。それまでに作っておくよ」

「うっす。じゃあ失礼します」

 いそいそと荷物を持って出ていくカーネを玄関まで送ってから戻れば、レリアはかなり集中して、あれこれ細工をしているようだった。

 さてと、パストラルも鉄板と宝石を取り出す。

「私のも作ってくれ」

「そのつもりだよ」

「……宝石を、使うんだな」

「ああ」

 そうだねと、作業に入りながら応答する。今の二人には魔術知識に差もあるだろう、それを考慮して、できるのならば、ぎりぎりで解除可能なレベルに仕上げたい。

「ぼくはね、明確に術式で不可能なことがあるんだ。まあ、断言するのは難しいんだけど――たとえば、ナイフがここにある。切れ味を上げたい、そういう術式を付加しよう。さっき話した属性付加エンチャントにも繋がるけど、ファレにもできなくはないだろう?」

「そうだな。風を僅かに発生させれば、鋭さは増すだろう」

「でもぼくは、宝石にその術式を入れておいて、ナイフの柄にでも埋め込まないと、それができないんだ。ナイフがナイフである、ただそれだけの理由だね」

「物品に干渉できないのか?」

「そう捉えてもらっても、たぶん間違いじゃない。簡単に、ナイフみたいな物品が作れないと、普段は説明してるよ。ただこれも厳密には違う。一般の魔術師が扱う創造系術式の5から10倍の構成を組んで、相応の魔力を消費して、たぶんこれはナイフなんだろう、なんて評価されるような、ひどく不格好な代物が完成したとしてもね」

「それは、制約なのか?」

「どちらかというと、代償に近いのかな。ぼくの魔術特性センスが原因なのは間違いないよ。だけど、宝石は術式との相性が良いし、構成を中に入れるだけなら、宝石そのものが変質しているわけじゃない。逆に、容量を少しでも大きくしようと手を入れることは、できない」

 その代償が大きいのか小さいのか、ファレはよくわからない。魔術師としてのパストラルが、誰よりもそれはわかっているだろう。いや、それを理解するために、試行錯誤をしているのか。

「でも、逆に言えば風の属性だけを使って、鋭いナイフみたいなものを作ればいいんだから、現物に拘らなくてもね」

「……これでも、知識だけは蓄えているつもりだったんだがな」

魔術特性センス蓄積ヘキサで、属性種別では地属性だったろう?」

「そうだ。よくわかるな」

「きみの術式に関しても、以前から少し相談に乗っていただろう? 加えて、地層なんかの例があるように、積み重ねると言えば地属性だ。でも言ってしまえば、やはり悪影響だよ」

「――?」

「地属性を扱う人間は、水との親和性はあるし、火にも耐えられるけれど風が苦手だ。そう言われるとね、どうしたって風属性の魔術を覚えようとしなくなる。ああいや、そもそも、得意属性を学ぶだけで精一杯かな」

「それは、そうだが」

「言われる前に、試した人だけが理解できる。確かに、誰かと比較したのならば、風属性の人と地属性の人、それぞれが風の魔術を使ったのならば、そりゃ得意な人の方が勝るさ。幅も広い、威力も強い、細かい調整も利く――だけど、それって比較することじゃないんだよ、本来はね」

「だが、使えないことはない、そういうレベルだろう?」

「使えない術式なんてないよ。それは、使おうって意識がないだけだ」

「――厳しい物言いだな」

「悪いね、ぼくは魔術と女性には誠実だから。きみは知識を積み重ねているけれど、それを使おうって意識が低いし、偏ってる。カーネさんを見て、発想が柔軟だと思っただろう?」

「そうだな……本当に楽しそうだ」

「ああやって、ぼくたち学生は何でもやってみるべきなんだ。苦手? じゃあどこまでできる? 真に迫ることくらい、偽物だってやるのに、自分ができないなんて誰が決めた? ――そうやって、いろいろやるのさ。でも、目標がないと、手さぐりになってしまう」

「目標、か」

「聞いてみるかい?」

「参考までに」

蓄積ヘキサっていうと、ぼくには袋のイメージだ。そこにいろんなものを詰め込むんだけど、たくさんの袋を持ってる。つまり、別のものをいろいろと入れられるわけさ。冒険者としての観点からだと、そうだな、防御も攻撃も含めて、衝撃ソニックでも集めてみようか」

「――なんだと? 衝撃?」

「発生する力さ。あらゆる攻撃に衝撃はついている。殴る蹴るはもちろんのこと、斬ることだってそうだ。それらを、蓄積って名前の袋に入れてしまうのさ。出す時に注意は必要だけど、力の発生が必然として存在しながらも、それがなくなったように感じるだろうね。そう考えれば、声そのものだって衝撃だから、ため込むのは容易いし、放出する際に倍化するような構成を組めば、いろいろ使いみちはある」

 今度試してみよう――何気なく呟いたその言葉に、ファレは息をのんだ。

 そうだ。

「うん? どうかした?」

「うん」

「――そうか、それなんだな。知識を蓄えること、知らないことを知ることが楽しみだった。そのために学院に入ったが、私も試せばよかったんだな」

「そうだね、ぼくはそっちをお勧めするよ。確かに、図書館なんて呼ばれるくらい、知識の宝庫と呼ばれるような人もいるけど、そういうのはね、三十を過ぎて、回りに言われてようやく気付くものであって、自分で決めつけて進むものじゃないのさ。ただでさえ、ぼくたちはまだ学生なんだから」

「……」

 そう、それは正しい。

「何度か、同じ台詞を聞いた……が、パストラル。まるで自分に言い聞かせているようだな?」

「……忘れそうになるんだ。ぼくの生活は、昔から自分の年齢を感じさせないものだったし、周囲がそうしてくれていた。もちろん、認めてくれることもあるし、認めさせてもいた。これは性格なのかな、入学試験の時もやったけど、誰かを見下すためじゃなく、ぼくを見ろと言いたくなる」

「それほど自分を押し付けているようには感じなかったが」

「うん、そうしてる。ぼくは自分が非凡だとは思ってないからね。毎日楽しんではいるけれど――きっと、子供らしくはない。でもぼくはまだ十三歳だ」

 だから、学生だと口に出す。未熟であることを言い聞かせる。

 特に目標を見失ってからは、前に進む方向がわからないのなら、足元を見よう、そういう意識を持った。

「そうそう、デルフィも違う意味でいろいろ試してる最中だから、話してみるといいかもしれないね。どちらかというと、彼の場合は知識を溜めてるんだけど」

「いろんな人の戦い方を学んでいる、とは聞いているが」

「そこから一つ、ステップアップしてるところじゃないかな。ぼくでも誰かに教えることができる、そう思えばこれもぼくにとっての経験だね」

「そんなものか」

「……ラルくんにとっては、同世代の友達と話す方が大切でしょ」

 箱を片手に、そこでようやくレリアが口を挟んだ。

「うん、それはそう。学生になってのも、それが目的だったからね。もうできた?」

「概要だけ。自壊式は、いくつ仕込んでもいいかな」

「ちょっと見てみようか」

「ん」

「予定は?」

「三つ」

 箱を受け取り、すぐに解析を始める。仕込む予定の自壊式を除けば、おおよそ八割の完成度だ。

 レリアは慣れている。

 この手のパズル、魔術における訓練は、フユ・イーダーから毎月のように受けてきたから。まずは解析し、突破し、そして元に戻しながら改良をするまでがセットだ。

 あくまでも改良であって、新規ではない。ベースは元の術式を使い、それらに手を加えていくだけなので、それほど時間はかからない。

 ただ、それと比較してもパストラルの解析速度はかなりのものだ。レリアの癖も知っているので、ざっと見るくらいなら五分とかからない。

「レリアは優しいね。警告のための自壊式は必要ないよ」

「そう、じゃあ二つ目が初見になるから、そのつもりでやっておく」

「うん」

 ちらりと時計を見たレリアは、まだ夕食まで時間があることを考え、改めて術式の構築に取り掛かった。

「パストラル、自壊式とはなんだ?」

「ああ、一般的にどう呼ばれてるかは知らないから、あくまでも通称なんだけど、防御系……いや、暗号系になるのかな? 簡単に言うと、錠前に鍵を入れると、それ自体が壊れて鍵が開かなくなるような術式だよ」

「言葉通り、自壊して機能不全を起こすわけか。復元は?」

「そこは錬度次第。一般的なケースだと、最初は復元可能なものを仕込んでおいて、深層部には復元不可能にする」

「となると……魔力識別か」

「うん、それもセオリーだよ。解析には必ず、誰かの魔力が乗るものだからね。そこに反応させるのが一番容易い。複雑化したいなら、術式の解除に連動させて時限式にしたりもする。術式を誰かに解析させないための、防御術式としても利用できるよ」

「そうか」

「――ということで、待たせたね、ほら」

 鉄を利用した手のひらサイズの箱を投げられ、それを受け取る。

「解析の仕方なんかは必要ないね?」

「知識はある」

「うん。防御術式が作られてるから、それを解除すると、最後に宝石が出てくる。そこで終了でもいいけど、ぼくたちの流儀だとレリアがやっているよう、元に戻して、さらに自分なりに術式を改良して完成だ」

「わかった。その完成までを、当面の目標としよう」

「そんなに意気込まなくても、難しくはしてないさ。おっと、カーネさんも戻ったみたいだ。出迎えてくるよ」

「うむ」

 玄関で迎えたカーネは、ちゃんと着替えていたが息を切らせており、大き目の鞄を持っていた。

「た、ただいま戻ったっす」

「あはは、急がなくて良いって言ったのに。どうぞ中へ、今しがた箱を作り終えたからね」

「うっす」

 少し落ち着くのを待ってから、先ほどしたものと同じ説明をして、カーネにも箱を渡す。難易度はともかく、造りは変えてある。

 結果だけ言えば。

 翌日になっても二人はまだ解析が終わらなかったので、次に逢った時までの宿題とした。

 当然である。

 おおよそ一ヶ月くらいを目安にして作ったのだから。


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