第21話

「そうそう! 今日はみんなにお土産があるんだよ!」

 厨房で調理を始めようとした矢先、ルチカは思い出したように大きな声を上げる。

「お土産? ルチカ姉ちゃん、なにを持って帰ってきたの!?」

 彼女の声に反応して集まってきた子どもたちに、ルチカはもったいぶるような表情を浮かべる。

「ふっふっふっ、今日のお土産はちょっと凄いよ。みんな、絶対に驚いちゃうんだから!」

 そう言いながら彼女は、バッグから取り出した熊肉の塊をドンッと勢いよくテーブルの上に乗せた。

「うわぁっ、すっごい!! お肉だぁっ!」

「こんなおっきいお肉、初めて見たっ!」

 塊肉を目の前にした子どもたちは口々に声を上げながら、喜びを爆発させる。

「どう? 凄いでしょ。……って言っても、この熊を仕留めたのはシュージなんだけどね」

 自慢げに胸を張ったルチカだったけど、すぐに表情を緩めながら俺へと話を振る。

 彼女のその言葉で子どもたちの視線は一斉に俺の方へと向けられ、そのあまりの勢いに俺は思わずたじろいでしまった。

「これ、兄ちゃんが狩ったの!? すっげぇ、兄ちゃん! 見た目によらず強いんだ!」

「こらっ、そんなことを言っては失礼ですよ! ……ですが、確かにこのお肉は立派ですね。さぞ大きな熊だったでしょう?」

 子どもたちを静かに𠮟りつけるマローネだったけど、しかしその視線は塊肉に興味津々だ。

「……どうやって調理すれば、美味しく頂けるでしょうか? これだけの量があれば、みんな一切れずつ食べられそうね」

 どうやら彼女の中では、どうやって子どもたちにお肉を食べさせるかの計算が始まっているらしい。

 教会を見ただけでもあまり裕福な場所ではなさそうだし、肉なんてそう頻繁に食べられるものでもないのだろう。

 それでもまずは子供たちへと考えるところが、彼女の優しさを現している。

 そうやって盛り上がっているマローネたちから少し離れた場所で、ルチカは俺にそっと耳打ちをする。

「ありがとね。シュージがお肉を分けてくれたおかげで、みんなすっごく喜んでくれたよ」

「いやいや、お礼を言われるようなことじゃないよ。それにしても、ルチカはやっぱり優しいんだな」

 彼女だって、自分のためじゃなくてみんなのために肉を用意したんだ。

 それは簡単そうに見えて、誰でもできるようなことじゃない。

「そんなんじゃないよ。私はただ、シスターに憧れてるだけ」

「シスターに?」

「うん。……シスターって凄いんだ。自分の性活だって苦しいのに、子どもたちを立派に育てて。その上、困ってる人たちの世話まで一生懸命やってる。私も、そんなシスターみたいな人間になりたいの」

 そう呟くルチカの顔は輝いていて、その眩しさに俺は思わず目を細める。

「それなら、もうなってるだろ。ルチカは、困ってる俺を助けてくれたじゃないか」

「そう? 私がシュージを助けたのも、ただシスターの真似をしただけなんだけどね。だいけど、もしそう思ってくれてるなら嬉しいな」

 はにかむように笑うルチカはとても可愛らしくて、俺はそんな彼女に見惚れてしまった。

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