第20話

 元気よく庭を駆け回っていた子どもたちは、俺の隣に立つマローネとルチカの姿を見つけると一目散に駆け寄ってきた。

「シスター! ルチカ姉ちゃんも! お帰りなさい!」

 満面の笑みでふたりに挨拶をした子どもたちは、続いて俺の顔を眺めて不思議そうな表情を浮かべる。

「このお兄ちゃん、誰?」

「この方はお客様ですよ。しばらくこの教会で一緒に生活しますから、みんなも挨拶をして」

「はーい! よろしくお願いしますっ!!」

「あ、あぁ……。俺はシュージって言うんだ。よろしくな」

 子どもたちから一斉に挨拶をされて、その勢いに少しだけたじろいでしまう。

 それでも彼らに負けないように、俺も笑顔を浮かべて挨拶を返した。

「ほら、そろそろ夕食の準備を始める時間ですよ。みんなも、急いで手を洗ってきてください」

「はーい!」

 マローネの掛け声に元気よく返事をした子どもたちは、そのまま教会に併設されている建物へと駆けだしていった。

「子どもたちが大勢いて驚きましたか?」

 去っていく子どもたちの背中を見送っていると、マローネがそう声を掛けてくる。

「この教会は孤児院も兼ねているので、身寄りのない子どもたちを引き取って生活を共にしているのです」

「なにを隠そう、私もこの孤児院の出身なんだ。と言っても、未だに行く当てがないからこの教会でお世話になってるんだけど」

 照れたように頭を掻きながら冗談をいうルチカに、マローネはクスクスと笑う。

「ふふっ、またそんなことを言って。ルチカほどの実力があれば、冒険者として十分に生活できるはずでしょう。それでも教会や子供たちのために残ってくれていること、みんな分かってるんですよ」

「いやぁ……。ナンノコトダカ、ワカラナイナァ」

 どうやら図星を突かれたらしく、ルチカは誤魔化すように明後日の方向を見つめる。

「そんなことより、晩ご飯の準備をしなくっちゃ。早くしないと、子どもたちが待ちきれなくなっちゃうよ!」

 あげく話を逸らすように声を上げたルチカに、マローネは母親のような笑顔を浮かべて答える。

「そうですね。では私たちは厨房に行きますから、シュージさんはどうぞゆっくりしておいてください」

 そのまま俺を残して行ってしまおうとする彼女に、俺は慌ててその背中へと声を掛ける。

「いや、俺もなにか手伝うよ。お世話になるんだから、それくらいはさせてほしい」

「そう、ですか……? ですが、お客様に手伝いをさせるなんて」

「だけど、ここに住まわせてもらう以上は客って言うより居候だから。なにもしないと、逆に気になるんだよ」

「そうそう。シュージもしばらくは私たちの家族になるんだから。家族に遠慮はいらないでしょ」

 俺の申し出を援護するようなルチカの言葉で、最初は渋っていたマローネもやがて首を縦に振った。

「……そうですね。では、お手伝いしていただけますか?」

「もちろん。家事は一通りできるつもりだから、任せてくれ」

 そうして俺たちは、三人連れ立って歩き出すのだった。

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