第19話

「では、少し教会内をご案内いたしますね。どうぞ、こちらへ」

 そう言って先導するマローネに連れられて教会の中へと入った俺は、そこに祀られていた像を見て思わず噴き出してしまいそうになった。

「んなっ!? なんでアイツが……」

 そこに祀られていた石像は、まさしく俺をこの世界へ送り込んだ張本人であるクソ女神の姿をしていた。

 だいぶ美化されているとはいえ、俺が憎きあん畜生の姿を見間違えるわけがない。

 予想外の場所で出会った奴の姿に呆然と立ち尽くしていると、そんな俺の様子を不思議に思ったらしいマローネが声を掛けてくる。

「いかがなされました? もしかして、あの女神像が気になりますか?」

「いや、そういうわけではないんだけど……」

 アレを信仰しているシスターが相手に、下手なことは言えない。

 思わず曖昧な返事を返してしまう俺に、マローネは少し可笑しそうにクスクスと笑いながら答える。

「お気になさらなくても大丈夫ですよ。ファミラ様は懐の広いお方。たとえ異教徒の者相手でも、決して拒んだりいたしません」

「そうそう。私だってこの教会に住んでるけど、別に積極的にファミラ様を信仰してるわけじゃないし」

 その後もふたりからの説明を聞くに、どうやらあのクソ女神──ファミラ様はこの世界でもそれほど信仰されていないみたいだ。

 どの街でもひとつはファミラ信仰の教会があるらしいのだけど、そのほとんどはここと同じように寂れているのだとか。

 それでもマローネのような熱心な信者は教えを守り、こうやって教会を守り続けながら困っている人たちを救済しているらしい。

「人は全てにおいて平等であるべし。いかなる立場の者であろうと、人であることに変わりはない。それこそがファミラ教の最も大切な教えです」

 そう呟きながら女神像へと祈りを捧げるマローネを見て、直接あの女神と会話した俺はなんとも複雑な気分になってしまう。

 あの人を人とも思わない態度の女神が、そんな大層な教義を掲げるか?

 アイツのことだから、「神からしてみれば、人間なんて所詮はみんな同じ動物でしょ。そこに上も下もないわ」くらい言いそうなものだ。

 とはいえ、急に現れた俺が彼女の信仰に水を差すわけにはいかない。

 そもそもこれからしばらくお世話になるというのに、それはあまりにも失礼というものだ。

 というわけで大人しく口を噤むことにした俺は、やがて祈りを終えたマローネによって教会の裏手へと連れられて行った。

 表からでは見えなかった広い庭のあるそこには、子どもたちが楽しそうに遊びまわる光景が広がっていた。

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