第18話

 ルチカに手を引かれて辿り着いたのは、壁外に広がる街のさらに外れのある小さな教会だった。

「はい、到着っと。それじゃあ、呼んでくるからちょっと待っててね」

 それだけ言い残して、ルチカは俺を残してさっさと教会の中へと入っていってしまう。

 ひとり取り残されてしまった俺は、ただ手持ち無沙汰に教会を眺める。

 外壁をツタのような植物に絡みつかれたその教会は、知らない人が見れば廃教会だと思われてしまうかもしれない。

 それでも庭や教会の周りは人の手によって綺麗に手入れされていて、今でも立派に教会としての役目を果たしていることが伺える。

 壁のところどころにはヒビが入っていて、それを補修した跡がなんとも歴史と暖かさを感じさせた。

 そんな風に教会を眺め続けていると、不意に扉の開く音とともに教会からルチカがひとりの女性を連れて出てくる。

「ファミラ教会へようこそ。私はこの教会でシスターをしております、マローネと申します」

「えっと、俺はシュージです。いきなり訪ねてしまってすいません」

 丁寧に頭を下げながら自己紹介してくる女性──マローネに挨拶を返すと、彼女は微笑みを浮かべたまま小さく頷く。

「ルチカから話は聞きました。なんでも、森で遭難して記憶を失くされたとか」

「ええ、まぁ……。自分の名前だけはなんとか覚えてたんですが、それ以外はほとんどなにも思い出せなくて」

 シスター相手に嘘を吐くのは忍びないけど、かと言っていまさら本当のことを話すわけにもいかない。

 すでに言い慣れてしまった嘘を告げると、マローネはさらに言葉を続ける。

「聞けば今日の宿はおろか、日々の生活のための糧すらないのだとか。さぞかし苦労なされたのでしょうね……」

 こちらを労わるような慈愛に満ちた彼女の表情に、俺は込み上げてくる罪悪感を抑えながら曖昧に頷く。

 そんな俺に助け舟を出すように、ルチカはマローネに向かって口を開いた。

「ねぇ、シスター。シュージをしばらく教会に住まわせてあげたいんだけど、良いかな? 身の回りのお世話は、私がちゃんとするから」

「ええ、それはいいアイデアですね。狭く古い教会ですが、シュージさんさえよろしければぜひ」

 ルチカの提案にマローネはもろ手を上げて賛成し、俺に向かって伺いを立ててくる。

「俺としては、住む場所を提供してくれるならありがたいです。でも、良いんですか?」

「はい、もちろんです。教会とは、困苦された方を救う場所。シュージさんさえよろしければ、いつまでも滞在いただいてけっこうですので」

 そう言って慈愛に満ちた微笑みを浮かべるマローネに、俺はその言葉に甘えることにした。

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