第17話
すっかり機嫌を取り戻した様子のルチカは、改めて俺を見つめながらゆっくりと口を開いた。
「さてっと。それじゃあシュージも無事に身分証を手に入れることができたし、次に必要なものはなんだと思う?」
「次に……? そうだなぁ……」
彼女から投げかけられた質問に、俺はっ眉を潜めて首を傾げた。
正直に言って、今の俺には足りないものが多すぎる。
金もなければ仕事もなく、頼れる人間も目の前にいるルチカだけ。
できることといえば、手からイモを出すという手品みたいなスキルだけ。
そのおかげで食料だけは困ることはないけど、所詮はその程度の能力だ。
はっきり言って、人生詰む一歩手前って感じだ。
「まぁ、確かにシュージにはいろいろと必要なものが多いけど。だけどまずは、これからしばらく住む場所が必要でしょ。まさか、野宿するわけにもいかないしね」
「いや、俺は別にそれでも構わないんだけど」
女の子ならともかく、男の俺が野宿していてもそれほど危険はないだろう。
現に周りを見渡せば地面にボロ布を引いて座り込んでいる人もちらほら見つかるし、とりあえず二、三日くらいなら大丈夫だと思う。
そんなことを考えていると、ルチカはため息を吐きながら口を開く。
「大丈夫なわけないでしょ。シュージって見た目だけは小奇麗でお金持ちそうに見えるから、こんな所で野宿なんてしてたら一発で襲われちゃうわよ。身ぐるみ剥がされるだけならまだいい方で、運が悪かったらそのまま拉致されて奴隷として売り飛ばされるかも知れないわ」
「マジかよ……。この街って、そんなに治安が悪いのか?」
「いや、治安が云々よりもシュージの警戒心が薄すぎるだけでしょ。記憶がないにしたって、今までいったいどんな場所で生活してきたんだか……」
呆れたように呟きながら頭を押さえるルチカに、俺は苦笑いを返すことしかできなかった。
「だけど、だったらどうすればいいんだ? 自慢じゃないけど、宿を取るような金は持ってないぞ」
「本当に自慢じゃないわね、それ。……だけど安心して。それも含めて、私がちゃんと面倒を見てあげる」
どうやら、ルチカにはなにかいいアイデアがあるみたいだ。
自信満々にそう言い切った彼女は、そのまま俺の手を引いて歩き出す。
「ほら、そうと決まったらさっさと行くわよ。急がないと、日が暮れちゃうわ」
「うわっ!? ちょっと待ってくれよ!」
そのまま駆けだしたルチカに引っ張られるようにして、俺たちは夕暮れに差し掛かった通りを進んでいくのだった。
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