第7話
「いやぁ、すっごいねぇ。この大きさのグレートベアーなんて、なかなかお目にかかれないよ。いいもの見せてもらって、そのうえお肉まで分けてもらえるなんて。お兄さんって、めちゃめちゃ良い人だねぇ」
異世界に転生して初めて出会った女の子は、尻尾を嬉しそうにフリフリと振りながら手慣れた様子で熊の死体を捌いていた。
「いや、こっちこそ解体してもらって助かったよ。倒したはいいけど、死体をどうしたもんかと悩んでたんだ」
彼女の言葉に応えながらも、俺の視線は揺れる尻尾とついでに彼女の頭から生えた獣耳へ釘付けになっていた。
そう、なにを隠そうこの少女は獣人さんなのである。
頭から生えた肉食動物を思わせるような三角形の耳に、柔らかそうな縞模様の毛に包まれたしなやかで長い尻尾。
その特徴から見ても、彼女は虎の獣人といったところだろうか。
そんな華奢な女の子が大ぶりのナイフを器用に操りながら熊を解体していく姿は、まさしく異世界なんだなぁとしみじみ感じてしまう。
そうやって彼女の仕事ぶりをしばらく眺めていると、やがて熊の死体はいくつもの肉の塊へと姿を変えてしまった。
「ふぅ、これで終わりっと!」
「おお、ありがとう。手伝わなくってごめんね」
「いいよ、大したことじゃないし。それに、報酬だって貰ってるからね」
そう言いながら彼女は塊肉を両手に一個ずつ持つと、満面の笑みをこちらへ向けてくる。
「二つでいいのか? もうちょっと持っていってもらっても良いんだけど」
「いやいや、これで十分だって。これ以上は、仕事に対して貰いすぎだもん」
というわけで俺の元には、かなりの量の熊肉が残ってしまった。
残る問題は、この肉をどうやって運ぶかということだ。
女神によって着の身着のまま異世界に放り出された俺はバッグなんて持っていないし、そもそもバッグがあったとしても持ち運ぶだけの腕力も心許ない。
さらに言えば、俺はまだこの森を抜ける方法すら分からないのである。
となれば、この問題を全て一気に解決する方法はひとつしかない。
「なぁ、ものは相談なんだけど……」
俺がそうやって声を掛けると、獣人の少女は不思議そうな表情を浮かべながらこちらに視線を向けた。
そんな彼女に向かって、俺は少し申し訳ないと思いながらも言葉を続ける。
「お肉をもう少し分けるから、運ぶのを手伝ってくれないか?」
俺のその提案を聞いて、少女は一瞬の間の後で嬉しそうに満面の笑みで頷く。
「そんなことならお安い御用だよ! 全部運んじゃうから、私に任せなさい!」
ドンッと彼女が胸を叩くと、たわわに実った膨らみもそれに合わせてわずかに揺れる。
その動きに思わず目を奪われていると、彼女はなにかを思い出したように口を開いた。
「そう言えば、自己紹介がまだだったよね。私は虎獣人のルチカ。よろしくね、お兄さん」
「俺は荒木修治だ。こっちこそよろしく」
その言葉とともに差し出された手を握りながら、俺たちはお互いに笑顔で挨拶を交わすのだった。
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