第8話
「いやぁ、重ね重ね悪いな。でも、いいのか? さすがに女の子に荷物を全部持たせるのは気が引けるんだけど……」
ふたり並んで森を歩きながら、俺は思わずそう呟いていた。
そんな俺の言葉を聞いて、ルチカはなんでもないように首を横に振る。
「いやいや、気にしないでいいよ。私って、こう見えてけっこう力持ちなんだ。もしかしたら、シュージより強いかもしれないよ」
そう言いながら力こぶを作るルチカは、しかしどう見てもか弱そうにしか見えない。
そんな彼女がほとんど熊一匹分の肉の塊を軽々と運んでいる姿は、正直言って頭がバグってしまいそうだ。
これが異世界クオリティって奴なのか。
「それにしても、シュージはどうしてこんな森の中に居たの? なにか依頼でも受けてたの?」
やがてなんてことない雑談の合間に投げかけられた彼女の質問に、俺は思わず言葉に詰まってしまう。
こういう場合は、いったいどうやって答えればいいんだろうか。
正直に異世界から転生させられたと答えてもいいものか、それとも適当な嘘で誤魔化す方がいいのか。
もし正直に話してルチカにドン引きされてしまったら、それだけでショックで立ち直れそうにない。
それどころか、もしそれが原因で彼女に見捨てられたりなんてしたら文字通り生きていけない。
というわけで俺は、ない頭を振り絞って適当な言い訳を考える。
「えっと、実は俺もどうしてこんな所に居るのか分からないんだ。気が付いたらこの森の中に居て、それ以前の記憶も曖昧で……」
そうして口をついて出たのは、そんなあまりにもありきたりな嘘だった。
いくらなんでも、記憶喪失なんてすぐばれてしまうような言い訳しか思いつかないなんて……。
内心で自分の応用力のなさにショックを受けている俺に対して、ルチカの反応は凄まじかった。
「記憶喪失!? それって大変じゃん! じゃあ、自分がどこに住んでたかも分からないの?」
「えっと、まぁそうなるな。覚えてたのは自分の名前くらいで、それ以外はほとんど分からないんだ」
「そんな……。きっと、すごく酷い目にあったんだね。それで記憶が抜け落ちちゃったんだよ」
どうやら彼女は俺の拙い嘘を本気で信じ込んでしまったらしく、ものすごく同情的な表情で俺を見つめてくる。
そんな彼女の様子に罪悪感で心を痛めながらも、こうなれば俺も全力でその流れに乗っかるしかない。
というわけで、無事に俺は記憶喪失の可哀想な男という地位を手に入れたのである。
「ともかくそんなわけだから、ルチカに会えて本当に助かったんだ。ありがとう」
「ううん、どういたしまして! むしろ、シュージさえ良かったらもっと私に頼ってよ! というか、ここで会ったのもなにかの縁だしシュージの生活が安定するまで、私が面倒見てあげる!」
そんなことを言いながら、ルチカはまた自分の胸をドンッと叩くのだった。
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